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カリフォルニア農業から日本を見つめる

アメリカの真面目さに学ぶ

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第1回 1995年10月01日

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今年の8月末、一週間の日程でカリフォルニアの農業地帯を視察した。ほんのわずかな人々との交流や駆け足で回る旅程であったが、それでもアメリカ農業の健康さや経営者たちの誇り高さや逞しさを感じられた。また、日本についての手前勝手な思い込みをは裏腹に、たくさんの問題を抱えながらもアメリカという国そのものが持つ自己再生能力を垣間見たような気がした。僕の感想は、初めての海外旅行者にありがちな旅先への過剰な思い入れが支配しているかもしれないが、以下、僕のカリフォルニア農業印象記を何回かに分けて書いてみる。
カリフォルニア農業の背景


 カリフォルニア州の面積は日本全土より広く、州の南北に広がる広大な内陸平原地帯を中心に、250品目以上の多様な農産物を生産する農業地帯である。カリフォルニア州の農地面積は1350万≒そこに7万戸の農家があり、平均は何も語らないかもしれないが1戸当たりに割ると、1戸当り面積は約190ha。単純に日本の平均と比較すれば160倍である。

 今回、訪ねたのは、内陸のサクラメントーバレーと呼ばれるサクラメント平野を中心にした地域、その南のサン・ホォーキン・バレーと呼ぶストックトン、フレズノなどの中部内陸地域。そして北部海岸地帯の野菜生産地帯サリナス、ワトソンビルである。

 8月だというのに海風と霧で日中でも心地よい気候のサンフランシスコ市内を出て、海岸山脈と呼ばれる丘陵地帯を越えると、気候は一変する。東のシェラネバダ山脈までのビッグバレーと呼ばれる広大な平原である。そこは日中の気温が40℃を越す土地だ。でも、乾燥しているため木陰に入ると暑さはさほど感じない。

 夏の間、自然のままの原野は草がすべて枯れ上がり、その枯草色の中に点在するカリフォルニア・オークの濯木が唯一の緑という景色が広がる。その分だけ、濯漑された農地の緑、そして住宅の庭や都市に栽植された芝生や木々がことさら目に鮮やかだ。カリフォルニアでは、すべての緑は、濯漑による人工の緑なのだ。

 農業だけでなくカリフォルニアのあらゆる産業そして豊かな暮らしは、大規模な水利開発事業がそれを成り立たせている。生命線である水を確保するために、遠くシェラネバダ山系の雪解け水を引き、高地の人造湖に限られた川の水をくみ上げ、何度もポンプアップを繰り返しながら、ほぼ本州の全長にも及ぶような千数百キロ先のカリフォルニア南部地域まで水を送っている。巨大な運河や濯漑ダムの建設があって、カリフォルニアの現在はあるのだ。

 水源に近い北部地域と南部とでは、買う水の値段が10倍以上も違う。1エー力ー(40・469a)の畑に1フィート(30・48m)の深さに貯める水の量を示す単位「1エーカー×フィート」の単価が、北部地域の30ドル前後から南部や運河から遠い地域では350ドルから400ドルという価格になる。文字通り水を買ってする農業なのである。しかも、その水は生活用水から都市の維持管理、工業用水と分けあって使うわけで、冬季間の雨や山間部に降雪の少なかった年には水不足になり、農業生産も抑制される。

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