ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

江刺の稲

他所の土、他人の目で自らを反省する

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第189回 2012年01月27日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
本誌編集部員である加藤祐子の一言にヒントを得て書く。加藤は大学で農業機械を専攻しメーカーの研究者としても北海道の畑作地域を比較的回って来た。その彼女がフェイスブック(Facebook)の農業機械のグループを見ていて、十勝や網走対域で野良イモ対策に雪かきをしている作業を見て「ヘーッ、こんなことするんだ」と驚き、地域や作目の違う人が他所の人の作業を見ることの意義を僕に伝えた。

本誌編集部員である加藤祐子の一言にヒントを得て書く。加藤は大学で農業機械を専攻しメーカーの研究者としても北海道の畑作地域を比較的回って来た。その彼女がフェイスブック(Facebook)の農業機械のグループを見ていて、十勝や網走対域で野良イモ対策に雪かきをしている作業を見て「ヘーッ、こんなことするんだ」と驚き、地域や作目の違う人が他所の人の作業を見ることの意義を僕に伝えた。

全くそのとおりである。北海道以外の人のために書いておくが、十勝や網走地域などでは温暖化のせいで降雪量が増え、以前のように土壌が凍結しなくなった。昔は畑にジャガイモを堀り残しても凍結により腐り、翌年に発芽することは少なかった。しかし最近では降り積もった雪のせいで土壌凍結が少なくなり、野良イモが増えているのだそうだ。そんなことから、最近では野良イモ処理のために、1月末くらいから畑に積もった雪を取り除いて土を凍らせる作業をするようになっている。その作業は「雪割り」と言うのだそうだ。

フェイスブックの「農業機械・農機具」という公開グループのメンバーになっているのは現在100名ほどで、中心的な書き込みメンバーは北海道の畑作農家が中心である。府県の畑作や水田農家も参加しており、本誌読者の比率が高い。ご存知でない方はぜひご覧になってみれば、“農機マニア”たちの楽しい会話が聞けること請け合いである。特に会員が探し出してくる世界のメーカーサイトや動画サイトの情報は現実の我が家の経営には使えなくとも面白く勉強になる。

本誌読者の場合、家から離れた農地でいわゆる出作りをしている人が多いので当てはまらないと思うが、屋敷回りの農地だけで仕事をしている農家は土質の多様性や排水や地力の違いによる作業や栽培の工夫がない。異なる様々な土で仕事をすることでこそ農家は腕を上げるものだ。

中には土壌分析をするまでもなく、雑草の種類を見て土壌のpHを言い当て、適切な施肥をして土壌改良を進める人もいる。また、土関係の機械は土質によって大いに作業性が変わるため、作業手段を変えたり部品を付け替えたりして作業能率や作業の質を高めている人もいる。

申し訳ないが、ここまではまえがきでしかない。言いたいことは、多くの農業経営者にとって大事なのは、他所の地域、他所の土の情報を知ることだけでなく、農業界以外の物の見方やビジネスの常識を知ることではないだろうかということだ。出作りをする人が家の周りでしか仕事をしない人よりも、様々な条件の中で仕事を改善し良い作を得ているように、農業の外を知ることでこそ自らの地域や農業や農業経営を健全化させるのである。

農家としては素晴らしい仕事をするのに儲かっていないとボヤく人も少なくない。それを農政や農業団体あるいは取引相手のせいにして批判するばかりで、自らの有り様を変えようとしない人も少なくない。

もとより農業問題は農業関係者問題であり、彼らの居場所作りのために農業問題が創作されている。彼らに期待しても始まらないのである。むしろ、取引相手、顧客と自分との関係、それも利害が完全に一致することなどありえない。それでも顧客や取引相手としか商売はありえないのである。一度、自分の立場からではなく、顧客や取引相手の立場で自分自身を見つめ直すことも農業経営者には必要なことなのである。

関連記事

powered by weblio