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「東北人からすれば、やはり大阪商人はすごいと感心するな。彼らは酒飲みながら値段交渉はしない。飲む前にしっかり交渉して、値段を決めてから飲む。飲んでいるときは金の話はいっさいしない。特に教えられたわけではないけれど、話をしながら相手の腹を読んでいくというやり方は、そこから学んだな」
交渉力は、コストを削減して経営を進めていく上で不可欠なスキルである。さらに、伊藤には農業機械のメンテナンスが自前でできる技術的な裏打ちもある。これも結果的にコストの削減につながっている。
「ディーラーに持っていったら100万くらいかかることもある。もし収穫時に故障して修理に出すことになればどうしようもない。でも、うちには発電機から溶接機から切断機、コンプレッサーと何でもある。なにかあっても現場で修理でも整備でもなんでもできる。部品もネットで検索して、一番安い物を探して買う。中古でも自分で整備ができるから抵抗ないね。農機を買うときは必ず現金。現金だと交渉ができるでしょ」
自前でできるという自信が困難な道を切り開く
一見順調に見える伊藤の経営だが、今回の震災のように予想もつかない事態が降りかかることもある。大震災の影響で昨年は稲刈りが2週間遅れ、若干の品質低下と収量減になった。福島第一原発事故の影響では、付き合いのあった個別の客からの注文も途絶えてしまった。
そして何よりの痛手が、これまで一番安定していると思っていた、10年来取引があった中食・宅配業者との契約がなくなったことだ。取引先の担当者が変わり、品質よりもコスト削減を優先したいと一方的に通告を受けた。取引先の要望に応えようとはしたが、提示する条件はどうやっても採算が合うものではなかった。またコストだけではない、人間関係にも関わるような複雑な問題も背景にあった。伊藤は契約をやめることにした。
悔しい気持ちはないですか? と聞くと、「そりゃあないわけではないけれど、まあ、ものは考えようだから」と言う。どういうことか。
「それまでその業者に年間7000俵ほど出さなくてはならなかったので、うちだけで間に合わず周辺の農家から仕入れていたわけですよ。それをうちで自主検査して売っていた。これからは仕入れる必要がなくなったので、利益は減るけれど、仕入れる分の経費が残るし、うちのコメだけで取引ができるようになった。その取引先もうちのことを気遣ってくれて、取引してくれそうな業者を紹介してくれているし。なるようにしかならないけどさ」
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伊藤基夫 イトウモトオ
代表
伊藤農場
1950年宮城県栗駒町(現・栗原市)生まれ。68年宮城県立加美農業高校卒業後、就農。就農当初は3.6haの圃場での稲作と養豚の複合経営を行なうが、80年にコメ専業でいくことを決心。周辺農家の兼業化が進む中、作業受託によって経営面積を広げ、現在の経営規模は60ha。工作機械についての該博な知識と技術を活かして農業機械の整備や修理はすべて自分で行ない、また地元の農業経営者にそのノウハウを伝える講習会を開いている。宮城県稲作経営者会議副会長、栗原市稲作実践盟友会会長も務める。主品種はひとめぼれ、ささろまん、まなむすめ、ゆめむすび等。
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