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葉とらず栽培とJGAPを武器に“産地のプライド”を守り続ける/岩木山りんご生産出荷組合(青森県弘前市)

国産生産量の約5割を占める日本一のリンゴ産地は青森県。その中でも弘前市を中心とする津軽地方が生産の中心だ。だが、この地でも生産量の低下や後継者の不在に悩まされているという。これらの問題を自らの経営問題と考え、「今よりももっと美味しく!安心して食べていただける、りんご創り!」という志を同じくする生産者が集う出荷団体がある。岩木山りんご生産出荷組合だ。現在46名の生産者からなる同組合の取り組みとはどのようなものなのか。取材・文/紺野浩二(編集部) 撮影/石川拓也

 日本一のリンゴ産地として知られている青森県弘前市を中心とする津軽地方。その歴史は古く、西南戦争が始まった1877(明治10)年、養蚕家・山野茂樹が屋敷畑にリンゴを試植したのが始まりとされている。

 かつての津軽地方の先人たちがそうだったように、現在のリンゴ生産者も多くの困難に直面している。直近の課題としては、多くの生産者が再生産可能な経営ができないでいること、そして進む高齢化と後継者の不在だろう。結果、産地としての地位が低下し、地域経済が冷え込んでしまっているのだ。これは、津軽地方がリンゴの伝統産地ゆえに生じてしまった問題ともいえる。というのも同地方には集荷市場が複数存在し、生産者はリンゴを生産して出荷すれば現金収入が得られる環境にあるからだ。ゆえに、大半の生産者は市場で高値になる外見のいいリンゴの生産に走ってしまいがちになる。また、販売を手がけなくても困らないので顧客と接する機会もほとんどなく、常に変化する消費者ニーズに応える経営感覚を持ちにくい点も、問題解決を困難にしているのだ。

 だが、このままではいけないという危機感を持ったリンゴ生産者も少なからずいる。岩木山りんご生産出荷組合にも、そういった人たちが集まっている。

 「当組合は、2006(平成18)年、JGAP個別認証を取得した生産者を中心に17名の組合員で発足しました。組合の目的にはリンゴ産業の発展と周辺地域への貢献、生産技術の向上による品質と収量の安定化などいろいろありますが、商品および個人の安全性の確保にも、組合員一同力を入れています。中国野菜の残留農薬問題があった当時、私たちも他人事ではないと感じましたので、組合としてJGAP団体認証取得を目指すこととし、実際に09年に取得しました。昨年度で団体認証を取得している組合員は46名中43名です」(組合長・工藤浩氏)

 もっとも消費者は、「JGAP認証を受けた、岩木山りんご生産出荷組合のリンゴだから喜んで買う」というわけではない。購入の決め手になるのは、やっぱり品質、味だ。そのため同組合は「不味い物は出荷しない」を方針に掲げている。

 「同じ津軽といっても、山間地、平地と幅広い。火山灰土のエリアもあれば沖積土壌のエリアもある。農家の栽培技術レベルも違うから、とれるリンゴもいろいろありますよ。だからこそ生食用リンゴの出荷にあたっては、糖度設定基準を厳しく設け、13度以上のものとそれ以下のものと分けています。生産者の都合でリンゴだったら何でも受け入れるようなことはこの組合ではしていません」(地区役員・今秀則氏)

 同組合顧問・木村図氏は「これ、よ~く見てくださいよ」と、筆者にリンゴを手渡した。言われた通り、目を凝らして見ると、全体が赤く着色しているわけではなく、表面には白っぽい部分が残っていたことに気付いた。これは一体何だろう?

 「葉の影ですよ。つまり“葉とらず栽培”したものです。普通リンゴは見てくれをよくするために葉を摘みますが、我が組合では個々の生産者の作業省力化と人件費削減のために、この栽培方法を取り入れています」(前出・木村氏)

 実際食べてみたが、なるほど甘さと酸味のバランスは絶妙だった。よくよく考えてみれば、残していた葉で光合成し、デンプンを果実に送ってくれるわけだから、美味いリンゴができて当然といえば当然か。

 「我々がよくならないと、周辺産業はもちろん、青森の経済もよくならない。頑張っていきますよ」(副組合長・棟方清光氏)

 岩木山りんご生産出荷組合の組合員たちは、先人が築いた伝統産地の地位とプライドを守り続けるため、新たな取り組みを始めたのだ。

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