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「大手プラント会社の設計部門の人が『オランダで農業研修してみたら』と勧めてくれたんです。オランダでは農作物の15%を無農薬で栽培していました。その設備と技術がすでにあるということです」
長谷川は花卉、具体的にはカトレア栽培を学ぶために施設園芸の先進国オランダへ旅立つ。キャベツ生産は諦める覚悟だった。しかし、時代は1980年代後半のバブル全盛期で、日本から花卉農家の子息が大挙して研修に来ていた。しかも花卉はデザイン、ブランドがモノを言う。流行にも敏感でなければならない。
「ブランド力のある組織の傘下に入って最新情報を得ないと成功しないが、人の下で働くのは性に合いません。花卉は無理だと悟りました」
異国で途方に暮れていた頃に立ち寄ったレストランで、運命を変える出会いが待っていた。
「オランダ産の生マッシュルームが入ったサラダを食べたら、味も香りも違っておいしい。堆肥を発酵させる栽培法はキャベツでもやってましたから、『できる』と思ってしまった(苦笑)。温度帯の細やかな管理が求められることは後で知りました」
一度帰国し、家族経営からの脱却を目指して法人化。1991年8月にマッシュルーム専門学校(CCO)の外国人向け短期集中講習の初級コースに入学。卒業後はオランダの農家で修業し、翌年からマッシュルーム作りをスタートさせた。
導入コンサルタントに現場に強い若手を指名
当時の国内マッシュルーム市場は単価が高く市場規模は拡大していたが、外食産業の需要増が中心で一般家庭には普及していない。チェーン量販店でさえ「一日に売れるのは数パック」という状況だった。
1500平方メートルの栽培面積は、オランダでは家族ファーム向けの小型施設だ。それでも建設費などの初期投資に約7億5000万円を要した。
自己資金ゼロで農地を担保に日本政策金融公庫と農協からの借金で賄った。バブル期でなければあり得ない融資であるのは間違いない。ところが、建設中にバブルが崩壊。全量買取で販売窓口となる予定の商社2社が青果部門を打ち切ったため、売り先をゼロから開拓することになってしまう。
施設の稼動にあたっては、製造元であるオランダの設備メーカーから派遣されたコンサルタントを一年間雇った。長谷川はコンサルタントの人選に関して注文をつけた。年齢が若いこと、現場で実践的に教えてくれることの2つだ。
「私の知っている日本のコンサルタントは役所を退職した60歳以上、口出しだけして現場で役に立たない人が大半でした。その二の舞は絶対に避けたかったのです」
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長谷川光史 ハセガワアキチカ
有限会社長谷川農産
代表取締役
1956年、静岡県富士市生まれ。静岡県農業短期大学卒業後、就農。祖父、祖母、父、母と5人で4haの農地での稲作と畑作。標高差を利用して年間に8ha分を出荷する県内有数のキャベツ農家。家族経営の限界に直面し、有機農業への転換を図るため、オランダに花卉の農業研修へ。そこで食べたマッシュルームの味に感動し、本場の味を日本に広めることを決意、90年、有限会社長谷川農産を設立、代表取締役に就任。91年にマッシュルーム専門学校(CCO)の外国人向け短期集中講習の初級コースに入学。92年よりマッシュルーム作りを開始。従業員数37名(パート含む)。年商約2億5000万円。
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