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ドイツと日本の農業を比べると、国土面積は日本の94%でほぼ一緒だ。しかし、農家人口は34万戸(2007年)で日本(総農家で253万戸)の7分の1しかない。だからといってドイツの農業が衰退しているわけではない。経営能力を身につけ、後継者を育てるマイスターが産業としての農業をけん引している。そして、ポーランドやハンガリーといった国から来た人間が働き手となって労働力を供給している。
EUは移民も多く受け入れ、労働市場は広く開かれている。だからといって本国人の仕事はすべて奪われてしまうのかといえばそんなことはなく、競合しあいながらお互いに住み分けしている。それが経済発展をもたらしてきた。
TPPは農業に新風を起こす
国境を超え一大経済圏を構築し、互いに協調しつつもせめぎあう関係でもあるEU諸国。こうした環境に身をおいてきた長島にはグローバル化は当たり前なのだろう。「日本がTPPに反対するという選択肢はありえない」ときっぱりいう。
「TPPへの参加によって日本の農業が失うものはあるでしょう。だが何もせずに失うもののほうが大きい。日本の農業がスタート地点に戻り、新たな仕組みを作るにはTPPがきっかけになる」――。
長島の考え方はこうだ。成長産業になりうるはずの農業の足かせとなっているものはなんといっても農家の高齢化。「60~80歳が太宗を占めている農業は産業とはいえない」。といって世代交代も進まず、新規参入を阻むなど変わることを恐れている。自助努力での変化が不可能ならば、TPPをきっかけに構造を変えていくしかない。
TPPに参加すれば、せめぎあいに耐え切れない農家は淘汰され、意欲のある農業経営者が残ると考えている。TPPによってモノが安価で入ってくること以上に、「人や考え方が入ってくることに意味がある」ともいう。
「たとえば、外資系企業の農業参入などもそう。デルモンテのような多国籍企業は、産地を組織化し、グローバル規模で農産物を流通させる仕組みをすでに持っている。こういう仕組みが日本の農業に自由に入ってくれば、農業経営者も出荷先の選択肢が増える。それだけでなく、これらの企業の戦略を活用し、アジアへの輸出戦略も組みやすい」
TPPでは国の農業はつぶれない
長島のいうとおり、TPPに参加すれば、確実に農業に大変化をもたらすだろう。だがTPPが日本の経済や国民に恩恵をもたらすだろうか?私には正直なところ判断ができない。仮に恩恵があるとしても大企業に限られるだろう。気に食わないのは、まだ参加すると決めてもいないのに米国から自動車や牛肉などの規制緩和を求めてきた点だ。それを承知で交渉に加わるなど個人的に癪に障る。
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長島勝美 ナガシマカツミ
長島農園
代表
1972年生まれ。日本大学農獣医学部農学科卒業後の95年4月から、ドイツ・ミュンヘンで1年間の農業研修を受ける。帰国後、実家の農場を継ぎ、120種類の野菜を栽培し、地元の百貨店、生協、スーパーに6割、残りを東京、横浜および地元のレストランに販売している。経営規模は2.5ha。年間売上額約3,000万円。ドイツ人のフランチスカ夫人との間に二人の子供がいる。労働力は本人、夫人、両親と3人のスタッフ。
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