ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

江刺の稲

オランダに行った金野徹君への手紙

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第195回 2012年07月13日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
拝啓 金野徹君。オランダツアーへのご参加ありがとう。今春に帯広畜産大学を卒業。兼業農家だったご両親に代わって改めて農業を経営しようとしている君。決して小さな金額でない参加費用を工面してツアーに参加してくれたことをこの欄を借りてお礼を申し上げ、ついでながらの説教を垂れたいと思います。

優れた農業経営者の先輩、コメ卸業、農業資材販売業、農業機械メーカー、種苗メーカー、農薬メーカーなどの経営者や社員の皆さん、研究者、畜産コンサルタント。企業のサラリーマンの皆さんも出張扱いではなく自費で参加しているのですよ。そんな自らを農業の当事者と思う人たち。そしてレストラン経営者兼農業見習いという方まで総勢21名。君が一番若く、どの参加者も君の心意気を喜び、愛情を込めた説教をしてくれていましたね。君の職業人生の最初に皆さんに出会えたことを幸運と思い、その出会いを大事にしてください。そのお返しは君が農業経営者として成功することです。

今回の体験を通して、これまで大学や君を育ててくれた家族、地域、農業に関わる世間で学んできたことを改めて見詰め直し、農家の子として産み落とされた君が、現代の農業経営者として自ら生まれ変わる努力をしてください。

今回、たくさんの物を見、人にも出会った。僕にとって一番印象的だったのは、ジーランド州の畑作複合農家リナスさんを訪ねたことでした。

75haに麦、ビート、種馬鈴薯、加工用馬鈴薯、玉ネギ、スイートコーンなどを作り、40haの草地で牛を放牧していた。それに、奥さんは週に二回、自家生産の牛肉や卵だけでなく周辺の農家の野菜類や加工品を販売する直売所を開いていた。

麦の反収は平均9t/ha。10aになおせば900kgだ。馬鈴薯やビート、玉ネギなどでも日本と比べて圧倒的な高収量だしコストも低い経営をしていましたね。日照時間の長い夏作で、土壌も肥えているという条件はある。だけど日本との収量の差の理由はそれだけなのだろうか。オランダでも麦などにはEUの補助金が出るが、日本での面積当たりの交付金の額を教えたらリナスさん目を丸くしていたよね。彼の経営規模は北海道の本誌の読者であればいくらでもいる規模。しかし、彼の所得レベルは日本の農家よりかなり低い。その理由は補助金の差です。

麦や馬鈴薯やビートを作る条件としてオランダは北海道などよりたしかに恵まれている。でも、彼の話を聞きながら、日本の農家の最大の「困難」は補助金・交付金による麻薬中毒だと思う。ばら撒かれる補助金が、農家の努力する意思を失わせているとは思わないか。日本でも同じ地域にいてリナスさんに近い収量を上げる人もいる。日本の多くの農家の不幸とはその安楽さのために自らが補助金中毒患者であることの自覚がないことなのです。それが農業経営者としての誇りをも奪っているのではないだろうか。

そしてリナスさんや彼に連れていって貰った果樹農家の小学生の子供たちが、トラクタを果樹園まで運転してきたりモアで草刈をしたりして、彼らが農家である親を慕い、親と共に自分も働き手であることを遠来の客である我々に伝えようとしていたよね。ああいう子供の姿は日本では稀だよね。そこにも、農業者としての親の誇りが伝わっているのでしょう。君はそんな親になってください。

関連記事

powered by weblio