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その言葉を聞いて、松木はハッとした。40歳を超えたばかりの自分が“隠遁”だ“晴耕雨読”だなどと言って暮らすなんて罰あたりなことなのではないかと感じたのである。
それが、農家・松木一浩の農業経営者への転換点だった。
売り上げが増えていくに従って、松木は「ビオファームまつき」の事業活動を通じてその事業者としての社会的責任を自覚するようになる。それを松木は、有機農業を通して中山間地での農業のビジネスモデルを確立し、その成功を後に続く若者や農業界に身を持って示すことだと言う。それを伝えるために、新規就農を目指す人に向けた「農はショーバイ!」(アールズ出版)という啓蒙書を書き、全国各地で講演活動に取り組んでいる。
本や講演では取り組んできたビジネスとしての有機農業経営のヒントや宅配事業のノウハウを伝える。さらに、農業だからこそ可能な顧客満足を高めるための事業に次々と取り組んできた。それは、言ってみれば農水省が言うところの6次産業化である。でも、農業生産と店舗でのサービス業を矛盾なく繋いでいくことは言うほどに簡単なことではない。
40aで始まった野菜の有機栽培は現在、約4haまで広がった。昨年の農場(ビオファームまつき)の売り上げは3600万円だが、10aで100万円を売り上げるのが目標である。
農場では5人のスタッフが約60品目の野菜を栽培している。小さなビニールハウスもあるが、基本的に露地栽培が中心である。週二度の宅配サービスに欠品を生じさせず、365日、年間を通して出荷できるように品種や作型に苦労する。
機械化も積極的で35馬力と24馬力のトラクタだけでなくサブソイラのような土作業機やタマネギ移植機まで使っている。今はディガーとプラウに注目している。
農業は農場長の渡辺君(25歳)が責任者である。彼は中学時代から農業に憧れていたという非農家の出身で、県の農業大学校を卒業して入社5年目。去年からは農場長として3人の社員と研修生をまとめ農場運営を任されている。
農場の売り上げは個人家庭への野菜宅配(週2回、9品目、2310円)と契約レストランへの出荷、それに自社販売である。
松木が農業経営の付加価値増大を目的として2007年に始めた野菜の惣菜店Bio-Deli(ビオデリ)。農場から車で15分のJR身延線西富士宮駅の近くに店はある。有機野菜を使ったデリカテッセンというより、フレンチのシェフが作るメニューとお金は掛かっておらずとも洒落た雰囲気の店構えで遠くからもお客が集まる。テイクアウトだけでなくイートインもできるが、店が小さくいつも満員状態。松木の有機野菜の付加価値サービス化の最初の事業は、今では一人の女性社員とパートさん二人で運営されており、売り上げは年間2000万円を目標にしている。
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松木一浩 マツキカズヒロ
株式会社ビオファームまつき
代表取締役
1962年長崎県生まれ。ホテル学校卒業後、ホテル、レストランサービスの世界に入り主にフランス料理サービスを担当、90年渡仏しパリのニッコー・ド・パリに勤務。帰国後、銀座のフランス料理支配人を経て、恵比寿の「タイユヴァン・ロブション」の第一給仕長を務める。99年、栃木県での研修後、静岡県芝川町(現在富士宮市)に移住。現在4haで野菜を有機栽培している。07年、富士宮市に野菜惣菜店「ビオデリ」を、09年に畑の中のレストラン「ビオス」をオープン。著書に「ビオファームまつきの野菜レシピ図鑑」(学研)、「農はショーバイ!」(アールズ出版)、「畑から届いた採れたてレシピ」(学研)等多数。
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