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【カリフォルニア農業から日本を見つめる】
日本人とアメリカ人、そのスピリットの現在
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第2回 1995年12月01日
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イトウ・パッキング
イトウ・パッキングは、フレスノ近郊の日系2世のイトウ一家が経営する果樹農園で、4000エーカー(約1600ha)の樹園地と10エーカー(4ha)の調製・出荷工場をもつ。全米、カナダのスーパーに直接出荷するアメリカでも有数の八ツカーである。同社の設立は1945年。リンゴ、プラム、ブドウ、ピーチ、ネクタリン、チェリー等を生産し、年間の出荷量は400万箱に達する。同社の農場以外に果樹生産者との契約が約5000エーカー(2000ha)あるという。工場と農園を案内してくれたのは3世のトレイシー・イトウ氏。同社の農場担当責任者であり、同社の副社長でもある。
我々が訪問した時、ネクタリンの出荷をしていた。大型コンテナで持込まれる 40℃を超す外気温の中にあった果実は、工場の人口で冷水をかけられプールに浸けて、5℃まで冷やして予冷する。4ヵ月の貯蔵をしているという。選果は光センサーによる選果と多数のメキシコ人女子労働者による手作業だ。1個、1個の果実にシーリングの機械でイトウーパッキングのシールが張られていく。コンピュータで制御された、選果、ワックスがけ、シール張り、箱詰め作業が巨大なコンベア上で進んでいく。選果はダイナミックでスピードも早い。日本の果実なら傷むのではないかと思う。アメリカの果実の硬さのせいか、傷みはない。
30歳前後かと思われるイトウ氏は、農場や選果場の現場でたくさんのメキシコ人労働者を使ういかにも若く逞しく自信に満ちた農場主の雰囲気を漂わせている。うまくいえないが、その身体的逞しさだけではない、体の中から湧き出てくるようなガッツを感じた。それは今の日本で出会う若い農業経営者にあまり感じることの少ないものだ。
見渡す限りのブドウ畑へ我々を案内しながら、メキシコ人労働者を使う苦労、労働法規の制約、気温40℃を超す畑での農業労働の厳しさを語っていた。
タニムラ&アンテル
タニムラ&アンテルは、カリフォルニアの大野菜産地サリナスにある、日系人タニムラー家と白人のアンテルー家との共同経営の野菜生産・出荷企業である。同社はアメリカでも最大のレタス生産者であり、他にブロッコリー、セロリ、カリフラワーなどを栽培する。栽培面積は1万8000エーカー(7200ha)におよび、その他1万4000エーカー(5600ha)の野菜を個別生産者と契約している。野菜の出荷業者としても全米で1、2を争う企業だ。販売先は、国内はもとより売上の22%をシンガポール、台湾などに輸出しており、一部は日本にも出荷されている。
タニムラ氏は、戦前から野菜栽培農家として成功していたが、戦争中の日系人迫害でキャンプに抑留されすべてを失った。戦後、サリナスに戻った谷村氏はまた1から出直すことになった。しかし、戦前からの友人アンテル氏は逆境にあるタニムラ氏を支援し、その野菜生産技術を買って自分の野菜マーケッティングビジネスへの協力を求めた。その信頼関係をもとに1982年、タニムラ氏とその5人の子供だちとアンテル一家の共同経営の企業体が設立された。タニムラ一家が生産を担当し、アンテルー家が出荷からマーケッティングを担当している。
同社は、野菜の予冷技術、レタスのラッピンク技術など、野菜の出荷・流通技術において先端的な技術開発をしてきた会社でもあり、また野菜の育種や栽培技術開発においてもアメリカの野菜生産業界をリードしてきた企業である。
海外を含めた全米各地からの需要に対してサリナスのオフィスで各地の注文に応じた出荷体制がとれるようになっており、輸出についても1週間前のオーダーで即対応が可能だという。輸出需要はブロッコリが中心で、年々増加傾向にある。そのために1000エーカーの土地を購入をするなど、意欲を見せている。現在、米国の野菜輸出はドール社がトップであるが、来年は同社がトップになるだろうと予測していた。今後の輸出への期待は中国、東南アジア諸国の需要が伸びることだという。もちろん日本市場への期待も大きいが品質への要求や防疫上の規制が厳しいといっていた。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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