記事閲覧
農業分野への事業拡大を狙うCECは、国と県で農商工連携するビジネスモデルを活かし、宮崎県周辺でパートナーを探して回っていた。しかしなかなか手を挙げる農家が現れない中、奥松が名乗りを挙げる。パソコンはほとんど使わないという奥松が、なぜITサービスを得意とする企業と連携を決めたのか。
「農業とITは一番離れてる気がしますよね。でも今までわれわれが勘と経験でやってきたことをデータ化して、次世代の目標や指針になること、そして技術の伝承を行って、今に近いものができてくる形に整備しておくこと。それが経営者の務めかなと思ったんですよ」
「次世代への伝承」という願いは、父親から直接農業を受け継げなかった体験から生まれているのかもしれない。そして可能性が少しでもあるなら、自分にとって未知の領域であっても、とりあえずやってみるのが奥松の姿勢なのだ。CECから農園に出向する青戸学は、奥松のことを「下りのエスカレーターを一気に駆け上がるような、逆風でも進む人」と表現した。
宮崎太陽農園はすでに生産を開始し、現在、作業工程の記録などITを活用した生産を検証中。品種はミニトマトを扱っている。
「ミニトマトを選んだのは、柔らかくて食べやすいトマトで糖度を乗せてみようという挑戦です。普通は5.5程度だけど、今は7か8ぐらいを維持している」
初年度から収量も出たが、大幅に市場に頼ることになって赤字に。今年はハウスが浸かり、さらに減価償却も重なって、また赤字になった。しかし満足いく作物が収穫できており、つい先日にはオイシックスのトマト部門でランキング1位に輝いた。先行きは明るいと見ている。
奥松農園としては、年商10億円を目指していきたいと奥松は語る。
「ただ露路野菜をやるよりも、ベトナムやインドネシアで作って、シンガポールと香港で売りたいんだ。何年か前から話は来てるけど、こっちを任せられる人間が育って足元が固まらないかぎり、なかなか踏み切らんですよね。なんで挑戦するか? それの方が面白いからですよ。ダメでもともとじゃん、って思ってしまう。いかんかなあ、こういう性格は」
経営者として成功を収めた奥松は、次世代にバトンを渡すことを考え、いわば“あがり”の状態が近づいてるのかと取材中思った。しかし今も先の見えない世界にあえて飛び込み、新しいことに挑戦しようとしている。経営者としての奥松の完熟度は「赤」ではなく、まだ「緑」なのであろう。(本文中敬称略)
会員の方はここからログイン
奥松健二 オクマツケンジ
有限会社奥松農園
代表取締役
1955年、宮崎県生まれ。高校卒業後、父親の反対を押し切って就農。15aのハウスを始める。就農してから10年後に作業受託業務を開始。99年、地域で10人ほどのグループを組み、JTが開発した中玉トマトの新品種の栽培を1.7ha使って始める。現在の栽培面積は約5.5haあり、トマトの他に、キュウリ、米の栽培、育苗も行っている。また奥松農園を拡大させた作業受託も継続しており、さらに別会社として直売所、簡易精米所も経営している。株式会社宮崎太陽農園の代表も兼務。
農業経営者ルポ
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)