記事閲覧
酔人 お正月の挨拶が、江戸時代末期の国学者、本居宣長の和歌だったとは。
土門 正月を迎えると、もうすぐ春だ。春と言えば、桜。それも照葉樹林の中にひっそりと咲く山桜が好きなので。
酔人 敷島、朝日と聞けば、昔の煙草のブランドや、戦時中の神風特別攻撃隊を思い出す。
土門 最初の特攻部隊は、この和歌から「敷島隊」「大和隊」「朝日隊」「山桜隊」と名付けられた。散り際のさを賛美するかのような解釈が独り歩きして、つい勇ましい軍国のイメージを思い浮かべてしまうが、宣長の本意は違うらしいよ。パッと散ってしまうソメイヨシノだったら、そういう解釈が成り立つかもしれないが、宣長が、山桜にかける枕詞に使ったのは「朝日に匂ふ」というフレーズだ。勇ましいイメージとは違う。これを戦意高揚に悪用した戦前の軍国主義者の魂胆が透けて見えてくるな。
酔人 今回の総選挙で右派勢力が大きく票を伸ばした。
土門 尖閣列島や竹島の領土問題がそうさせたようだが、相手の挑発に乗りやすい勢力にブレーキをかけるべく、あえてわが思いを宣長の和歌に託したのだ。
酔人 なるほど。
土門 宣長が生きた江戸中期の1775年に、1年半ほど、わが国に滞在したことがあるスウェーデン生まれのカール・ツンベルグというオランダ・東インド会社付き医官が残した日本の印象記には、「国民性は賢明にして思慮深く、自由であり、従順にして礼儀正しく、好奇心に富み、勤勉で器用、節約家にして酒は飲まず、清潔好き。善良にして友情に厚く、率直にして公平、正直にして誠実、…寛容であり、悪に容赦なく、勇敢にして不屈である」という記述がある。
酔人 宣長が和歌に託した日本人観を、同じ頃にツンベルグも共有していたことは驚きだ。さてお屠蘇の酔いがほどほどに回り始めた。テーマは、やはり環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉だな。TPPで美しい国の景観と、日本人の美徳が守れるかどうか。放談を始めてみようか。
会員の方はここからログイン
土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)