ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

江刺の稲

林芳正氏の農水大臣就任を歓迎する

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第201回 2013年01月17日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
自由民主党は第46回衆議院議員選挙で単独で294議席と絶対安定多数(全ての常任委員会で委員の過半数を確保し、かつ各委員会で委員長を独占するのに必要な269議席)を大幅に超える議席を確保した。さらに公明党の31議席を加えると、参議院で否決されても衆議院での再可決が可能となる3分の2を超える325議席となった。

 安倍新総理はこの数の力を使った政権運営はしないと発言している。それも325議席という数があればこその発言であるが、今回の大勝利が選挙の仕組みの結果であり、得票数を見れば自民党が国民の絶対的支持を受けている訳ではないことを安倍総理自身が認識しているからだ。民主党への失望と守旧派の国民新党や社会民主党の泡沫化、そして選挙期間が短かったために維新の会、みんなの党などのいわゆる保守系の第三局がまとまらなかった結果である。さらに、沈没する船から慌てて逃げ出していった民主党くずれを中心とした政治家たちの姿に政治や政治家に対する軽蔑に近い感情を選挙民に与えてしまった結果が戦後最低の投票率になった。

 とはいえ、第二次安倍内閣に対して期待は大きい。とりわけ新政権発発足以来半月もしないうちに90円台も見えてくるという円安傾向へ転換したこと。それは選挙中からの安倍氏による口先介入によるものであっても、日本の産業界が息を吹き返す前兆になってくれたらよい。

 さらに、新しい農林水産大臣に下馬評をまったく裏切って、林芳正氏が就任したことに、本誌は驚きと共に日本農業の未来に向けた変化を期待している。これまでの経緯からすればゴリゴリの農水族が大臣に選ばれるのだろうと思っていたが、まさに晴天の霹靂とも言える人事だ。

 日本農業を改革するためにも、自由化を進めるなかで確実に日本の国益を確保し、真に日本農業の未来を守るためにこそTPP交渉の場に早く付くべきであるというのが本誌の立場である。

 もっとも、そのための段取りで考え方の違いはあっても、実は、ほとんどの政治家たちも本心ではそう思っているのではないのだろうか。しかし、いわゆる農水族という農家というより農業団体を背負う勢力を党内に抱えた政党では、彼らの強硬な反対によって身動きが取れなくなっている。

 その典型がTPP問題であり、農業支援策のあり方だ。民主党の戸別所得補償を批判しつつも、自民党はさらに幅広いバラマキを主張し、日本のコメの競争力を高めねばいけない時に高米価誘導を主張する。それは、まさに農業団体に利するかもしれないが、日本農業を安楽死させることにつながるものだ。

 林新大臣は、そんな自民党農水族に取り囲まれながら、TPP問題や日本の農業と農村を先進国としての当たり前な産業と地域にしていくための困難な仕事に取り組むことになる。ひとりの政治家個人の考えだけで政治が動くわけではないことを承知の上で、林大臣には農業界の常識ではなく、大臣御自身の社会や歴史や経済への認識のもとに農水行政をリードしていただきたい。

 そして、せめて、平成14年に自民党農水族も納得させる形で、「『コメづくりの本来あるべき姿』として消費者と市場を重視する効率的な生産・流通と需給調整システムの実現」を目標とした「コメ政策改革大綱」を決定できた自民党農政に立ち戻っていただきたい。農業経営者たちは変化を期待している。

関連記事

powered by weblio