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ルポ再訪 あの時代、そして今

叶わぬ夢は若者に見せ、彼らが育つさらに大きな器を作る

「ルポ再訪と言うタイトルで記事を書くのだけど、須藤さんは前の記事の時以来で何が変わったのでしょうか」という筆者の問いに、須藤久雄(66歳)は笑いながら答えた。「何も変わらないよ。あの時のまま。変わったとすればお互い髪が白くなっただけでしょう。あっ、そういえば私は年金を貰える世代になったので、アグリアドバンスの社長を退任して、鈴木に代表取締役になってもらいました」

 今から17年前、本誌がまだ隔月刊だった1996年4月発行号(第16号)。当時49歳だった須藤のことを筆者は「描く夢、作る器にあわせて人は育つ」というタイトルを付けて紹介した。須藤は当時、一般の農業界や農家には想像もできないような夢を見て、関係者には「そこまでの施設はいらないのでは?」と揶揄されるような最先端の設備投資を進めていた。

 ルポのタイトルは間違っていなかった。記事を書いた当時でも、2つの農場で合計8100坪あった水耕野菜を生産する農場は、山梨県北杜市の八ヶ岳山麓にある農場を含め7カ所。ミツバに始まり小ネギやサラダ菜、クウシンサイあるいは多種多様なハーブ類まで作るハウスは合計で1万7千坪にまで拡大していた。それも、ただ須藤の個人農場を規模拡大させただけではない。須藤の下で働き、退職金を元手に独立させた6人の元社員たちが経営者として運営する農場と合わせて実現した生産規模だ。「何も変わっていないよ」と須藤は言うが、原点であるウォーターファーム須藤に始まった須藤の農場グループ(カズサの愛菜グループ)は、野菜生産額において約7億円、グループ全体の売上としては10億円に手の届くところまで成長していた。

 須藤自身が描いた夢、作る器にあわせて育ったように、今、須藤は彼の許に集まった若者たちに、夢を見させ、彼らが伸びやかに育つための器作りに腐心するようになっていた。

 愛菜グループの営業と企画部門を担当する中核会社であるアグリアドバンスの新社長になった田中剛(52歳)は、須藤が最初に立ち上げた法人農場(有)レイクファーム亀山を託した人物だ。アグリアドバンスは水耕栽培による野菜生産事業だけでなく、2007年には、会員制貸し農園「カズサ愛彩ガーデンファーム」(アグリライフ株式会社)、2008年に観光イチゴ農園である「くるべりーファーム」(株式会社 愛郷園)、2012年にはグループの野菜と地元産品を販売する直売所「カズサの直売所愛彩畑」も開設している。そして、今年中には観光イチゴ園の発展形として高設栽培でお客さんの多様な好みに合わせた品種を取り揃え自由に摘み取りを楽しんでもらう観光トマト農園。7カ所の農園の水耕清浄野菜を、そのまま食べられるよう洗浄・パッキングする設備の増設。さらには、自社農場だけでなく周辺の農家から集めた各種の根菜類も含めて、業務用に蒸して半加工する加工工場までも建設中である。完成すると、カズサの愛菜グループは、ハウスの規模で2万坪、生産から販売、加工、観光まで8法人を要する規模になる。

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