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ルポ再訪 あの時代、そして今

叶わぬ夢は若者に見せ、彼らが育つさらに大きな器を作る


 須藤自身、温室経営に技術革新をもたらした開発者でもある。水耕のベッドの下にレールを敷き、移動式にすることでハウスの建坪がそのまま有効栽培面積にする発明は須藤の開発によるものだ。最初のタイプは、人が作業する1カ所の通路だけ必要とするものだったが、さらに改良を進め、現在は、ハウスの端にあるベッドを空中に持ち上げることで、文字通り建坪がベッド面積とほぼ同じになる形にまで改良されている。

 須藤のグループが生産する野菜類の品質評価を保証しているのは、遠くは山梨県にある農場を含めて、各農場の栽培環境の変化を君津の本場で常にモニターし、そこから複合環境制御のできる遠隔管理システムが出来上がっているからだ。もちろん、各農場の責任者は栽培のプロであるが、この遠隔モニターと複合環境管理がより信頼度を高めている。しかも、このシステムの中にはパートの勤怠管理や作業管理まで汲みこまれている。

 さらに、ベビーリーフなどの収穫機も開発した。茶の摘採機のレシプロ刃の刈取部に搬送・集積部を持った機械で、ベッドの上に設置して走らせることで、機械収穫を可能にするもの。一つのベッドに必要に応じた多種の種を播いて収穫すれば、収穫段階でベビーリーフのミックスが作れ、袋詰め段階の作業も省力できる。まだ、改良の余地もあるが、ベビーリーフの農場で活躍している。

 「若い人に農業に夢を持てなんて言っても、後は『ビニールハウスで経験と勘だけで何とかしろ』では寂しいよ。ともに時代を切り開いているというような思いを共有できるから彼らも将来に夢を持てる」

こうした技術開発に取り組むことで須藤は若者に夢を見るチャンスを与えているのだ。

年齢学歴不問で初任給20万円

 須藤が経営の中でもっとも苦労してきたのはパートの労務管理であり次世代を育てる仕組みだという。高い時給を払えば人は働くわけではない。職場をリードできる人材を発掘し、その誇りを守りながらチームを作り、自らは細部の指示をしない形が良いと須藤は言う。でも、仮に優れた人がいても、周りが引きずり降ろしてしまうことに苦労がある。

 さらに、社員採用の人事システムに関しても、須藤独自の他では聞いたことのない方法を取っている。

社員の新規採用時の初任給は年齢学歴不問で月額20万円。これに年3ヶ月分のボーナスが付く。昇給は毎年1万円。良くも悪しくも仕事振りによる区別は一切せずに昇給する。もちろん、その人に合わせた日々の指導や教育は行っているが、働きが悪いと言って解雇することもしない。ただし、それは最長10年まで。その時点で退職金を支払う。今、各農場の代表者や役員になった人々はその退職金を資本金の一部にして独立させた。多くの経営者からすればかなり思い切った制度だろう。

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