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【江刺の稲】
中国産榊を神棚にお供えするバチ当たりの人へ
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第202回 2013年02月15日
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日本の自然の中で醸成されてきた風土神を祭る神棚に、我々の風土や自然観とは何のかかわりもない中国産サカキというモノを供えていることをどう考えるか。北東北や北海道の人聞いたら「プラスチック製のサカキを飾っている」という人もいる。そこにも形式だけの不信心を感じないわけでは無いが、プラスチックの代用品で済ますより中国産をお供えすることの方がはるかに日本人としては滑稽な行為のように思える。
話題は変わるが、2003年の2月号で「コメを神棚からおろす時」というタイトルでその前年の12月に当時政権政党だった自民党が党内農林族も納得させて「米政策改革大綱」をとりまとめた。本誌はそれを歓迎する特集を組んだ。もっとも、コメ改革は結果的には糠喜びで、歴史は逆戻りしたままだ。
高米価維持のための減反、それが政府管理であり続けることで利権を維持できる農協組織。それを説き伏せてコメ流通を市場原理の中に移行させようとした米政策改革大綱は、今回復権した自民党にもぜひとも取組んでもらいたい政策だった。それではしゃいだわけではない。
高米価維持と保護利権を守る本音を隠して“瑞穂の国”などと美しい言葉を弄してコメを神格化し「日本のコメを守れ」などと叫び続けてきた農業関係者の言葉の白々しさを批判すべく思いついたタイトルだった。
これに対しては神職を兼ねる読者からお叱りも受けた。筆者とて、神話時代から尊きものとして国民の多くが敬ってきた国家元首としての天皇陛下が稲を“お手植え”をする国は日本以外にない。さらに、伊勢神宮の神田のみならず全国にある神田のお米が神を祀るためのものであればこそ日本人にとって特別な存在であることを承知し、大事に思っている。そんな「豊葦原瑞穂の国」と古事記に語られた我が国のコメ作りの国であればこそ、土作りも管理もまともにしないほとんどのコメ作り農民による“補助金付き大規模家庭菜園”を続けさせ、自分たちの居場所を守るためにコメを神格化するような美しい言葉を弄する農業関係者の姿を醜悪だとすら感じて「コメを神棚から降ろせ」などと言ったわけだ。
話を榊に戻す。稲作は経済行為である。これに対して榊を神棚に供えるのは文字通り日本人の神事。だとすれば、知らずにであれ中国産榊を使うのはバチが当らないか?
ところで、八丈島の読者である奥山完己氏は榊の生産者。同氏は国産榊を復活させようとして全国の榊生産者に呼びかけて「国産榊生産者の会」を組織した。奥山氏のことは、本誌2011年7月号の農業経営者ルポに紹介されている。そして、昨年12月のA-1グランプリで国産榊のマーケティングをテーマにしてグランプリを受賞した柳原孝二氏と審査員の票を分けた、佐藤幸次氏も奥山氏の仲間でもある。
3月15日の定例セミナーは佐藤・奥山両氏を講師に“国産榊の復活”をテーマにしたい。日本の風土神と榊に興味のある方、ご参加願いたい。榊を扱う小売業の方、これはむしろビジネスチャンスではないか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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