ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

風土、文化 そこに生きる全ての人々を経営資源にする農村経営者


 そんな歓迎を受けながら店内に入ると、暖炉が目に付く。その横には手作りのブーケやアクセサリーなどが所狭しと飾られている。近所の高齢者が、取れたばかりの野菜や果物などの商品も持って来てくれる。

 工芸品はゆっくりと眼で楽しめるよう、そばに小さなテーブルと椅子が置かれている。取材の合間、人々が来てはそこに座り、店のスタッフと談笑し、やがて帰っていく姿を度々見かけた。飲食店の許可を取っていないから、客は自分でポットからコーヒーを入れる。そこがまた手作りの店に似合う。24坪ほどの小さな空間ながら、この土地で暮らす人々や自然の息遣いが感じられる場所だ。補助金で建てた箱物施設や大型直売所にはない魅力がここにはある。

 紫芝は「ここはコミュニケーションの場所でもあるからね」という。時にはイベントを開く。例えばシェフを呼び、直売所で扱う農産物の調理法を客に紹介してもらっている。あるいは、工芸品として飾られているワイヤーアートや注連縄を作る教室を開く。こうした交流を通して、風土の発見と絶え間のない創造がなされているのだ。

 こうした魅力に引かれるのは客だけではない。あちこちから研修生もやって来る。社員5人のうち2人はターン組。一人は大阪出身の日本人女性、もう一人はイタリア出身のイタリア人男性だ。イタリア人といえば、勤勉でないイメージが強い。それが彼の勤労振りに地元の農家がむしろ触発されているという。

 直売所が気に入り、ここで買った野菜を自ら作るために田切地区に市民農園を借り、名古屋から定期的に訪れる人も出てきた。市民農園だけなら名古屋近郊にもあるはずだ。それを遠路通うのは、この農村に有形無形の面白みを見つけたからに違いない。


農村経営者としての資質

 紫芝の楽しみは車いじり。時には廃品に近いようなクラシックカーを仕入れて、よみがえらせる。そのうちの一台は販売促進に活躍している。かつて流行った日産のダットサン。この荷台に野菜や果物を載せて出かけていくと、多くの人が寄ってくるという。この趣味にも紫芝の個性や能力が現れている。自ら面白がり、それを他者に気付かせる力だ。

 人は、家族にそして風土や村の中に産み落とされて農村人として育つ。やがて彼は農業を経営として考える能力を持つ人であればこそ、自らを育ててきた論理と時代や社会の変化のギャップに苦しむようになる。本誌読者の多くが悩んできたことだ。

関連記事

powered by weblio