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特集

これでいいのか!? 高米価と交付金

高止まりした米価が収まる気配をみせない。2013年産米の米価を占う2月にあった政府備蓄米の事前入札(未公表)では、昨年より1500円近い高値の60kgで1万4100円(税別)を付けたとされる。おまけに高米価を引き起こした農業者戸別所得補償制度は、経営所得安定対策と名前を変えただけで、基本的には同じ施策が自民党政権でも継続する。食品加工業者の間からは「廃業」「倒産」の声が聞かれてくるようになった。このまま放置すれば、いずれ農業者にも跳ね返ってくる。コメ産業の衰退はまさしく生産の縮小を招くからだ。いま何が起き、どうすればいいのか? 検証する。(取材・文/窪田新之助)

検証1 食品加工業界はどうなっているのか?

 高米価のあおりを受けている食品加工業界。とりわけ米菓と焼酎のメーカーはコメを主原料として扱うだけに痛手は大きい。伝統的な食文化を守るには何が必要なのか? それぞれ米焼酎と煎餅の主産地である熊本県の球磨、人吉両地方と埼玉県草加市を訪れた。

【現地ルポ 熊本県人吉・球磨地方の焼酎メーカー】

●原料米、半分近く足りず

 熊本県の米焼酎メーカー28社でつくる球磨焼酎酒造組合(人吉市)が、今年に入って組合員を対象に実施したアンケート。福山満生専務理事はその結果を見て、焦燥感に駆られた。全社合わせて年間に必要なコメ9000tのうち、24年産で5000tが足りないことが分かったからだ。しかも回答した組合員は半数の14社だけ。総量の8割以上を使う大手2社が答えているとはいえ、実際の不足量はもう少し膨らむとみている。

 組合が各社にコメの集荷状況を確認するのは初めて。「とにかくコメがない。あっても高くて買えない」。続々と挙がってくるそんな悲鳴に押されるように、急きょアンケートを取った。

 各社が扱う原料の大部分は、ふるい下のコメである。かつて約2割はMA米(ミニマムアクセス)だった。それが2008年に起きた事故米の不正転売事件(※注)をきっかけに、各社挙げて国産米に変更。MA米を政府から買い入れる資格も捨てた。

 国産原料をうたうようになったため、MA米を再び使うのはマーケットの反応を考えれば躊躇してしまう。それに原料を明記するラベルを変更すればコストもかさむ。それでも、「そのうち原料がなくなり、製造ができない蔵元が出てくるだろう。そうなれば、MA米の資格を申請して、再び扱うようになるかもしれない」と、福山専務理事は危惧する。


●地域流通米も打撃

 高米価の影響は、ようやく根付き始めた地域流通米にも及んでいる。

 人吉市に隣接する錦町に本社を置く、銘柄『秋の露』で知られる常楽酒造(株)。取材を始めた途端、米来健社長は堰を切ったように話し始めた。「原料米は6割しか確保できていない。今後入る見通しも立っていない」

 人吉、球磨両地方の焼酎メーカーは同社も含め、ここ数年、「球磨焼酎振興プロジェクト」を展開している。JAくま管内の生産者と連携し、地元で原料米を生産する運動だ。収穫したコメをJAから1kg当たり130円(玄米)で購入する。これは国と県が農業者に直接支払いをしているため、通常の半値で済んでいるという。

 これまでは原料米の調達について、地元の生産者との事前契約が必要な地域流通米と、一般流通の中米を半分ずつにしてきた。天候不順や国の政策転換などの影響で、地域流通米の不作に備えるためだ。

 それが11年3月に起きた東日本大震災、それに伴う東京電力の原発事故をきっかけに中米の需給が逼迫。球磨、人吉地方でも生産者からコメを直接買いに来る食品加工業者が相次いだという。

 同社は現在、原料米の購入価格は玄米で1kg当たり130円を上限にしている。中米の相場が200円を超えてしまった今、まったく手が出せない事態に陥った。

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