ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

海外レポート

イタリアの稲作を見て日本の農業経営者へ伝えたいこと 前編 稲作をする環境の違い

  • (独)農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター 水田利用研究領域 主任研究員 笹原和哉
  • 第1回 2013年03月15日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
本誌3月号の編集長インタビューにて紹介しましたが、地球の反対側で行なわれるイタリアの稲作には、現在の日本の農業経営者にとって異なる価値観があり、それに基づいた稲作の方法には、日本の農学者も農業経営者も知っておくと稲に関する感覚がまた新しくなる気づきがあると思っています。言うまでもなく、私たちの稲作は、気象や土の条件、文化、国の制度、コスト要因、品種等の様々なものに制約されて、私たちの行動も決まってしまいます。少しその制約を外してみたらどうなるのだろうかということは、体験する機会になかなか恵まれないものです。その制約を外した瞬間に、私達が誰よりも詳しく知っているはずの稲というものが、また新たな面を見せてくれます。この連載を機に一人でも多くの農業経営者の方に稲作の新たな面に関する気づきを持っていただくことができれば幸いです。

 イタリアの稲作を取り巻く環境は日本の農業経営者の皆さまとは、異なる点が多々あります。今回はその状況を整理していきましょう。やや回りくどいですが、意味が異なって伝わることがありますので、それを防ぐ意味で背景的な説明から始めたいと思います。


国と文化の違い

 まず、国と文化が異なることは、その稲作へも間接的な影響を与えています。イタリアはEUに加盟しており、2002年からユーロが使われています。12年はユーロ危機が叫ばれ、1ユーロが110円程度から、一時95円という、非常に円高になった状況で調査をすることになりました。私はこの時期に現地滞在していたのですが、野菜などの物価はやや日本より安いと感じました。また、鉄道や高速道路のインフラの利用料金は安いです。ちなみに大都市間には新幹線が通り、ほとんどの家庭には自家用車があり、スーパーマーケットで買い物ができる先進国です。

 イタリアでは最小自治単位を市町村などと人口で区分せず100人程度の集落から大都市までを「コムーネ」と呼んでいます。住居区域と田畑ははっきりと分かれており、円形のコムーネから放射線状に伸びた道路が他のコムーネを結んでいます。水田地帯までの移動中には畑が広がり、ごくたまに農場を通り過ぎます。規模拡大には向いている構造だと言えます。水田地帯の光景は大きな水田が広がり、白鷺・カラス・スズメ・ハトが飛び、カエルが鳴いて、新潟辺りに戻ったような錯覚を覚えます。

 車を運転する際、ガソリンは1リットル200円近くと高価でした。また、国全体で原子力発電を停止して、フランス等から高価な電気を購入しているということで、電気料金が高くなっています。3月号(35ページ)に掲載した日本とイタリアの生産費の比較を行なった表では、イタリアの稲作生産費は全般的に低いのですが、光熱動力費だけは日本とあまり変わりません。最近の円高傾向はイタリア産をより低コストに見せていますが、それでも、光熱動力費は高い状況にあります。

 次に、雇用労働についてです。イタリアではある程度以上の期間の雇用が続くと、常勤社員にしなければならないというルールがあります。このため、トラクタを操縦する稲作労働のように専門性が要る場合、季節雇用はできず、冬も労働者に給与を与え続ける必要があるのです。また、経営者は雇用する上で、社会保険料、失業保険等を労働者への労賃と同じくらいの金額を納めるという制度になっています。農業労働は12ユーロ程度(1ユーロ=110円として約1320円。以下計算方法は同じ)であり、 その2倍近くを雇用労力について経営者は払うことになります。これは、農業経営者にとって、日本に比べて省力化への強い動機付けがあることになります。一般的には、農業経営者は自ら進んで作業を行なっています。

関連記事

powered by weblio