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12年7月、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国のメキシコとカナダの交渉参加が正式決定して、TPP協定の交渉参加国は11カ国になった。参加国が増えれば増えるほど、利害関係が入り組んで交渉は難航するに違いない。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏は、農産物分野の市場アクセス(関税)分野について、12年10月に発表した一文「TPP交渉は今どうなっているのか? ~その4:カナダ、メキシコが変えた交渉の構図~」でこう説明している。
「TPP交渉において、アメリカは豪州に対しては砂糖の関税、ニュージーランドに対しては乳製品の関税を維持したいという強い意向を持っている。アメリカは、これらの産品については、競争力を持っていないからである。ただし、全ての国に対して、砂糖や乳製品の完全撤廃の例外を認めさせようというのではなく、あくまでも競争力を有するこれらの国に対してのみ、例外を主張している」
ご存知だと思うが、山下氏は、農水官僚として各種農産物交渉に携わった経験がある。そしてTPP協定に賛成の立場を表明している。交渉経験を踏まえて農産物分野の深刻な利害関係についてカナダを軸にこう整理している。
「カナダの弱点は乳製品と鶏肉の高関税であり、カナダはこれらの品目について例外要求をしてくるだろう。これらの品目は主としてフランス語圏のケベック州で生産されており、この取り扱いを間違えるとカナダの憲法問題、つまりケベック州の分離・独立に発展しかねないからだ。」
交渉参加国が増えれば、利害関係が化するだけである。その一文で山下氏は、「カナダの乳製品市場を開放させることができれば、少々ニュージーランドから乳製品が輸入されても、それと同等またはそれ以上の乳製品をカナダに輸出すれば、アメリカの酪農業界は困らないからである」と、簡単に糸がほぐれるような見方をしているが、本当にそうなるだろうか。
農産物交渉の難しさは、14年末の合意を目指す米国と欧州連合(EU)とのFTA交渉でもみられる。難航しているのは、牛肉に対する関税撤廃の扱いだ。13年2月8日付けロイター電が、「EU内ではフランス、米国内ではジョージア州などが完全な市場開放に消極姿勢を示すなど、前途は多難だ。」と解説している。
安倍晋三首相が、TPP交渉へ参加すると表明してすぐの2月28日の衆院予算委員会で、野田佳彦内閣で副外務相を務めた民主党の山口壮衆院議員がこんな質問をしているのを3月1日付け毎日新聞で読んだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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