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農産物交渉を経験してこられ、なおかつTPP協定にも通暁しておられる方にしては、かなり荒っぽい議論ではなかろうか。NAFTAや米韓FTAが、TPP協定交渉のベースライン(基本線)であることは、その通りである。だがそれはあくまで基本線であって、それを踏まえてさらに「高い水準の自由化」(外務省)を目標とすることは外務省の公式文書でも明らかだ。つまり山下氏が一文で触れた『アメリカが新たに加えようとしている新分野』のことである。この中には、WTOなどの通商交渉で議題にならなかったものが多く含まれていて、場合によっては関税撤廃を目指す交渉より厄介なこともあるのに、これらの詳細についてはいっさい触れていない。
交渉内容について国民に十分な情報が提供されないと、交渉が締結しても、国会での批准で否決される事態も起きてくる。ましてや「新分野」の中に、憲法や法律に抵触するような交渉テーマが入っているようであれば、なおさら国民への情報提供はおざなりにしてはいけないと思う。
大統領の暴走を防いだ
TPP協定交渉の秘密主義は、米韓FTA協定で臍をかんだ韓国の例でお分かりいただけよう。同協定の締結直後に、韓国議会で「通商手続法」が急ぎ成立した事情で十分に証明できる。前月号でも紹介したが、ポイントは、次の4つ条文である。国立国会図書館立法情報課の「立法情報」(12年2月)を引用してみたい。
【第4条】通商条約の手続及び履行に関して情報公開請求があったときは、政府は「公共機関の情報公開に関する法律」の規定により請求人に公開しなければならず、相手国の要請等の事情がある場合を除き、交渉の進行を理由に公開を拒否できない。
【第5条】政府は、国会外交通商統一委員会等の要求があるときは、進行中の通商交渉又は署名が完了した通商条約について報告し又は書類を提出しなければならない。
【第6条】外交通商部長官は、通商交渉開始前に通商条約締結計画を策定し、国会外交通商統一委員会に遅滞なく報告しなければならない。
【第10条】政府は、通商条約締結計画に従って通商交渉を進めなければならない。
これらの条文をあらためて読み通してみると、米韓FTA交渉で韓国は意に沿わぬ条項を飲まされていたことが容易に分かる。その教訓からかまず第4条で、「相手国の要請等の事情がある場合を除き」という条件付きながら、通商交渉も情報公開法の対象になると位置づけてきたのだ。それにもとづき第5条では、「進行中の通商交渉」であっても、議会への報告と資料の提出を義務づけた。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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