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江刺の稲

高米価が貧乏舌の日本人を増やす

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第205回 2013年05月20日

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「貧乏舌」という言葉があるそうだ。お米の美味い、不味いの違いをあまり感じない人のことだそうだ。筆者にその言葉を教えてくれたのは商社マンで海外駐在が長かった人。彼自身が「貧乏舌」だというのだ。だから、海外に駐在していても、そこで手に入るカリフォルニア産のコメでもそれほど不満を感じたことが無かったそうだ。その意味でコメ自由化は影響が大きいのではないか、と彼は心配する。もっとも、今月号のリーダーズスクエアに投稿されている塩谷哲夫氏の報告の通り、 「私たちが日本で常食している日本米(短粒)が高く、最高値はTAMANISHIKI(玉錦)の3420円で、KOSHIHIKARI, TAMAKI/GOLD, AKITAOTOMEが2930円であった。中粒米は1ランク下がって2000~1400円程度で、一番の売れ筋は1800円のNISHIKI,HIKARI あたりとのことであった」という。

昨年暮れの話で、10kg当たりで為替は1ドル85円で換算したそうだから、現在の為替レート100円で計算し直したら、それぞれ4023円、3447円、一番安いと言われるものでも、2117円になる。日本人が要求する食味レベルを求めるとなると、産地のカリフォルニアでもこんな価格になるのだ。品種としてはコシヒカリやあきたこまちであっても、適正に収穫調製できているコメは、そもそも極めて限られた量しかないのだ。かの貧乏舌氏が海外で買っていたお米も、そんなほんの小さな日本人マーケット向けのものなのである。

ところが、この貧乏舌の日本人を増やしていく事態が現在進行している。最近、昼に食べる安めし屋や弁当などのご飯が不味くなっているのを感じる。売っている弁当でも、コメの食味がはっきりする白米ではなく、味付けのご飯が増えている。また、弁当のご飯の量が減っているという人もいる。

混米に使われる網下米を含めた価格暴騰の中で、安さだけを売りにするような食堂や中食業者では背に腹は変えられず、以前なら使わなかったような品質のコメで商売をするようになっているのだ。

このことこそ日本のコメ農業にとって極めて深刻な問題なのである。そんな状態が続けば、やがて「こんなめし屋、二度と来るものか!」と怒る筆者のような客ではなく、腹が一杯になればなんとも思わない貧乏舌ばかりが日本の消費者になってしまうのだ。
なぜなら、不味いご飯に慣らされてしまうことで、それを食べてもなんとも思わない貧乏舌の日本人が増えてしまうことにつながるからだ。もとより輸入米は増量のための混米用に使われるのだろうが、日本人自身がコメの美味しさにこだわりを持たなくなってしまえば、低級な海外産のコメであっても気にしなくなるからだ。

筆者は、10kgで5780円(送料別)のコメを読者から購入している。でも、それを高いとは思わない。それはつい食べ過ぎてしまうほど美味いからであり、筆者が無類のコメ好きだからだ。美味しいお米があればオカズは立派なものである必要はない。刺身は無くともワサビ醤油だけや海苔の佃煮だけでも良い。

でも、こんなコメ好きはすでに少数派なのであり、そんな高いコメは買えないという人の方が多いのかもしれない。価格が下がればコメ消費も増えるはず、でも、高米価はさらに貧乏舌の日本人を増やしていくのだ。

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