ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

編集長インタビュー

円安(ドル高)の影響と農業

日本経済大学大学院の叶芳和教授は、円安ドル高が当面は続く可能性が高いと予想する。そうなった場合に農業にはどんな影響が出てくるのか。また、それに耐えうる産業構造をどう築いていけばいいのか。数々の著作で「農業経営者」という言葉を使い、本誌の創刊に大きな影響を与えた同氏に編集長の昆吉則が聞いた。(取材・まとめ/窪田新之助)


ドルの出口戦略としての円安


昆吉則(本誌編集長) 本日まず伺いたいのは円安ドル高と農業への影響です。そもそも円安が起きているのはアベノミクスが理由なんですか?
叶芳和(日本経済大学教授) アベノミクスもあるけれども、米国による金融政策、量的緩和の出口戦略が大きいですね。日銀の黒田総裁は少なくとも2年間続けることになっているんですが、その間にアメリカの出口戦略がとられると、急速に円安が進むでしょう。
昆 円安はまだ進みますか。
叶 今日の為替レートを見ていると1ドル100円ぐらいだったけど、110円、120円、あるいはそれ以上になる可能性があります。
昆 それは日本の農業、とくに輸入飼料に頼っている酪農にどう響いてきます?
叶 酪農の場合には規模拡大が進められてきましたよね。飼料を輸入することで土地の零細性の制約から解放されたわけです。原料を輸入する限り、円高のときにはもうかるわけですから今までは良かった。メガファームほど輸入依存度が高いので、1ドル70円台のときなんか、メガファームは相当にもうかった。逆にいえば、円安になるとコスト上昇に見舞われるわけです。小さい農家で飼料の自給度が高い場合、それほど影響はありません。
昆 飼料自給率の高さによって変わるということですね。
叶 そう。それで問題は、政府は規模拡大でコストダウンし、自立していく農家を育成するのが本来の目的なわけですが、円安は逆に自立に向かわせる規模拡大農家を殺してしまうという矛盾がある。僕はアベノミクスの大矛盾だといっているけどね。円安は輸出にはプラスだけど、輸入にはマイナスに働く。それが一つの矛盾。加えて政策として育てなければいけない自立農家を殺してしまうことになる。つまり二つの矛盾が重なっている。

ライ麦の裏作で1石5鳥

叶 それで円安と規模拡大が両立する、円安にも耐えられる産業体質をどうやって作っていくかということですが、まずは粗飼料の自給率を高めれば良い。飼料給与の4割は粗飼料。この分を自給できるようになれば、為替レートに影響を受けない経営に近づけるわけです。
昆 そうですね。
叶 それで僕がいま提案しているのは水田裏作でのライ麦なんです。ライ麦なら田植えが始まる前までに収穫できる。転作奨励金は出ませんが、コメを作りながら裏作でやるわけです。これは「1石5鳥」ですよ。
昆 1石5鳥ですか(笑)
叶 というのは飼料を自給できる、飼料代は安くなる。それを自給するためにコントラクターを使えば雇用も生まれ、そして畑から牧草をもらい堆肥で返す循環型農業になっていく。それからコメ農家に借地料を払うから、水田農家は潤う。
昆 なるほど。
叶 日本の乾草輸入量は200万tあります。これをすべて国産のライ麦で代替すると、100万haの水田裏作が必要ですね。ちなみに、現在の水田面積(主食用)は152万haありますから、これは十分可能です。また、ライ麦の収量は1ha当たり2tですから、借地料1ha7万円(裏作分)の場合、酪農家は3万5000円でライ麦1tを取得できます(コントラクター料金別)。これは輸入と同じですよ。借地料として1ha当たり7万円を負担すれば、輸入と同じ価格で乾草を確保できるわけです。規模拡大などのメリットを考えれば、不可能な数字ではないと思いますね。

関連記事

powered by weblio