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【叶芳和が訪ねる「新世代の挑戦」番外編】
酪農王国・浜中町農協の挑戦 乳量神話から解放され、高品質・高収益
- 評論家 叶芳和
- 2013年08月21日
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ブランド牛乳を作る酪農技術センター
北海道浜中町は果てしなく広がる釧路湿原の先にあり、釧路と根室の中間に位置する。浜中町農協は酪農だけの農協であり、牛乳は全量、タカナシ乳業に出荷している。タカナシ乳業はマーケティングに優れた会社で、消費者に一番人気のアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」を生産しているが、浜中町の牛乳はその原料になる。
浜中酪農がハーゲンダッツに選ばれた理由は、全国で唯一、牛乳のトレーサビリティが確立しているからだ。酪農技術センターを設立し、土壌分析、粗飼料分析、生乳の乳質検査を徹底し、健康な乳牛から高品質な生乳を生産する体制を作り上げた。また、放牧型であることも、消費者にとってイメージが良い。
浜中町農協は、酪農家185戸、経産牛1万3635頭、農地1万5000ha、生乳生産量10万tである(表1参照)。3分の2の農家が放牧している。1戸平均74頭の家族経営で、北海道では平均的な規模である。大規模なメガファームはない。しかし、ここの酪農は儲かっている。放牧型の優良経営では70頭規模で所得3000万円の農家もある(農家間の経営力格差はある)。都会の勤労者が年収300万円の時代、大変な高所得といえる。
浜中町が酪農技術センターを設立したのは1981年である。これは早い。農協としては全国初であり、画期的なことであった。土壌・粗飼料分析は個々の牧場に合った施肥、飼料設計のアドバイスのための基本情報であり、良質牛乳の生産だけではなく、大幅なコストダウンにつながっている。
土壌分析は3年サイクルで全戸実施している(年60~70戸)。健康な土地、おいしい草を供給するための基だ。サンプリングは土木会社に委託し(農家に任せると標本採集が適当になる)、分析は農協の分析センターで行なう。土壌分析を基に、当地域がカルシュウムの少ない酸性土壌であるため、乳量に応じた石灰を現物給与している。12年継続し、土地は変わった。そこで、肥料会社にオーダーし、浜中専用の肥料を造らせている。その結果、肥料代が激減したという。
肥料コストは北海道内で一番安いようだ。分析に基づいた施肥設計であるから、要らない肥料は買わずに済む。分析してないと「ホクレン」を断れない。
生乳の乳質検査も、牧場や乳牛個体ごとに乳成分や生菌数、投薬後の残存状況などを検査し、基準に満たない生乳の出荷を制限している。このように、浜中酪農は“分析”に基づいた酪農である。ブランド化に成功した背景はここにある。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
叶芳和が訪ねる「新世代の挑戦」
農家は減る一途、そういう中で、地域の農業を維持・発展させる動きがビジネス側から出てきた。借地による規模拡大も容易になった。新しいビジネスモデルが農業の近代化を推進し始めた。商系も農家も新世代の事業家がこれまでにない農業の創造に動いている。
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