ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

叶芳和が訪ねる「新世代の挑戦」番外編

酪農王国・浜中町農協の挑戦 乳量神話から解放され、高品質・高収益

浜中町農協の牛乳は品質の良さで有名である。ブランド化に成功し、消費者の支持を得た、貿易自由化に強い酪農地帯である。農家も高所得が多い。「乳量神話」からの解放が高収益酪農につながった。ホクレンと対峙してでも、“組合員の利益優先”という石橋榮紀組合長の経営哲学が農村社会の発展を導いている。(今年5月訪問)

ブランド牛乳を作る酪農技術センター

北海道浜中町は果てしなく広がる釧路湿原の先にあり、釧路と根室の中間に位置する。浜中町農協は酪農だけの農協であり、牛乳は全量、タカナシ乳業に出荷している。タカナシ乳業はマーケティングに優れた会社で、消費者に一番人気のアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」を生産しているが、浜中町の牛乳はその原料になる。
浜中酪農がハーゲンダッツに選ばれた理由は、全国で唯一、牛乳のトレーサビリティが確立しているからだ。酪農技術センターを設立し、土壌分析、粗飼料分析、生乳の乳質検査を徹底し、健康な乳牛から高品質な生乳を生産する体制を作り上げた。また、放牧型であることも、消費者にとってイメージが良い。
浜中町農協は、酪農家185戸、経産牛1万3635頭、農地1万5000ha、生乳生産量10万tである(表1参照)。3分の2の農家が放牧している。1戸平均74頭の家族経営で、北海道では平均的な規模である。大規模なメガファームはない。しかし、ここの酪農は儲かっている。放牧型の優良経営では70頭規模で所得3000万円の農家もある(農家間の経営力格差はある)。都会の勤労者が年収300万円の時代、大変な高所得といえる。
浜中町が酪農技術センターを設立したのは1981年である。これは早い。農協としては全国初であり、画期的なことであった。土壌・粗飼料分析は個々の牧場に合った施肥、飼料設計のアドバイスのための基本情報であり、良質牛乳の生産だけではなく、大幅なコストダウンにつながっている。
土壌分析は3年サイクルで全戸実施している(年60~70戸)。健康な土地、おいしい草を供給するための基だ。サンプリングは土木会社に委託し(農家に任せると標本採集が適当になる)、分析は農協の分析センターで行なう。土壌分析を基に、当地域がカルシュウムの少ない酸性土壌であるため、乳量に応じた石灰を現物給与している。12年継続し、土地は変わった。そこで、肥料会社にオーダーし、浜中専用の肥料を造らせている。その結果、肥料代が激減したという。
肥料コストは北海道内で一番安いようだ。分析に基づいた施肥設計であるから、要らない肥料は買わずに済む。分析してないと「ホクレン」を断れない。
生乳の乳質検査も、牧場や乳牛個体ごとに乳成分や生菌数、投薬後の残存状況などを検査し、基準に満たない生乳の出荷を制限している。このように、浜中酪農は“分析”に基づいた酪農である。ブランド化に成功した背景はここにある。

関連記事

powered by weblio