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視察レポート

農場視察セミナー『農業経営者』編集長と訪ねる日本の農業現場

(株)農業技術通信社は9月3日、3回目となる農場視察ツアーを山梨県内で開いた。参加者が向かった先は、私募債で独自に運営資金を獲得する一方、農作業の会員制を設けてファンづくりに励む山梨市の(有)ピーチ専科ヤマシタ。それから日本では困難とされてきた、醸造用ブドウの生産からワインづくりまでの一貫生産を実現した北杜市の「BEAU PAYSAGE(ボーペイサージュ)」。根強い人気がある両社は、どうやって顧客を取り込んでいったのか。(取材・まとめ/窪田新之助)


私募債で資金調達

ツアーの一行が乗ったバスが一宮インターチェンジを降りると、温泉街の風景とともに桃やブドウの畑が広がってきた。10分少々走ると、周囲の景色に溶け込む木造の2階建ての建物が見えてくる。そばには「カフェ・ラ・ペスカ」とイタリア語で書かれた看板。ピーチ専科ヤマシタが3カ月間の季節限定で運営するカフェである。
ここの2階で一行は、桃をふんだんに使ったサンドイッチとカットした桃が入ったアイスティーを楽しみながら、代表の山下一公氏(53)からこれまでの取り組みを聞いた。
山下氏がまず挙げた同社の特徴の一つは、私募債で運営資金を調達してきたこと。始めるきっかけとなったのは都内のパーティー。そこで出会ったある人物から、農業経営のあり方について次のような苦言を呈されたという。
「農家は補助金に頼っていて自助努力がない。私募債で集めたらいいじゃないか」
桃は植えてから経済樹齢になるまでに5、6年はかかる。ちょうど需要の増加で規模の拡大を進めていた山下氏は、経済樹齢になるまでの収入確保の手段として私募債を手掛けることにした。1万件の顧客の中でも利用頻度の高い人たちに対して、DMと一緒に私募債の案内を送った。その中身は一口当たり3年間の20万円。法規制の限界である49口を限定にしたところ、すべて集まった。金利をゼロとする代わりに、投資家には毎年6000円相当の桃やその加工品を贈っている。

ファンづくりにオーナー制度

資金調達の一方で、ファンづくりのために桃の木のオーナー制度を始める。単に人を呼び込むだけなら観光農園でもよさそうだが、「それは嫌だった」という。なぜなら、食べ放題にすれば、入園料の元を取り戻すまで食べ続ける人がいる。あるいは中途半端に食べ散らかす人がいる。こうした姿を見ると、「作り手側としていたたまれなくなる」からだ。
もっと愛着を持って、うちの農園に接してもらいたい―。そうした考えのもとに始めた桃の木オーナー制度では、1本当たりの料金は5万円。オーナーは収穫を含めて年4回の作業に従事できるようにした。  ただ、これは48本にオーナーが付いた昨年を最後に止めてしまった。収穫だけに来たり、指定した日にち以外に突然やって来たりするオーナーがいたからだ。1本の木に5万円だけで複数のオーナーがつくこともあり、スタッフの負担も増えて行った。
「きちんとしたルールを作らないと駄目だと分かりました」
代わりに今年始めたのが、会員制の「momo.club」。会費として1人当たり3万8000円を徴収する。オーナー制度とは違い、この会費で参加できるのはあくまでも会員一人だけ。もし会員が一緒に作業をする人を連れてきた場合には、1日当たり1500円ずつを払ってもらう。
作業は年4回。1日の流れは、午前中にその日の作業内容を座学した後、実際に取り組んでもらう。昼食を取った後、再び作業に取り掛かる。最終回では100個を収穫し、持ち帰ってもらうというもの。
会員を募集する案内は桃の木48本のオーナーにも出したが、2人しか集まらなかった。別途6人の応募があり、合計8人が会員になった。オーナー制度より人数は減ったものの、山下氏は満足している。一つには本当のファンが残ったからだ。
「今回見ていて面白かったのは最後の収穫でした。出来が悪かったとしても人のせいにしない、あくまでも自分の管理が悪かったというんです。見た目に関係なく、自分が作ったということで愛おしいわけですね」

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