ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

シリーズ水田農業イノベーション

乾田直播が変える水田利用 前編 ~耕盤をなくして新たな汎用化を図る~

 乾田直播は水稲の生産コスト低減に対して非常に有効な栽培手法である。また導入メリットは生産費低減にとどまらず、畑作の適用性拡大など、水田での利用形態の幅を広げる技術としても有用であることが明らかになりつつある。  水稲の乾田直播栽培を導入すると水田の利用形態、特に水田土層の利用方法が従来の移植体系による方法と根本的に異なってくる。これまでは移植体系による「水田」主体の圃場利用、つまり水稲作を中心とした水田の汎用利用が行なわれてきた。その際、多くの圃場で排水不良が問題になり、水稲作以外の汎用化が難しい場合もあった。しかし、乾田直播の導入後は「畑」主体の圃場利用も可能になり、畑作利用を含む本格的な輪作体系による水田の汎用化が実現できる。  そこで、乾田直播の導入により水田の利用方法がこれまでとどのように変化するかを説明し、乾田直播を基軸とした水田輪作体系における効果的な圃場の使い方、特に圃場の排水機能と湛水機能を発揮させる方法について2回にわたり報告する。 冠 秀昭 (独)農研機構 東北農業研究センター 生産基盤研究領域 農業機械グループ 主任研究員


畑作のように水稲を栽培する

 乾田直播の手法にはさまざまな作業体系があるが、ここでは経営規模の拡大や作業の高速化に対応した、グレーンドリルを用いるプラウ耕鎮圧体系乾田直播(以下、乾田直播)を取り上げる。この体系では畑作用の大型作業機を汎用利用することにより高速で作業が行なえて、かつ鎮圧によって圃場の水もちが良くなる。

 図1に乾田直播と従来の移植体系での主な作業を示した。従来の移植体系では、ロータリー、代かきハロー等を用いて耕起・砕土・整地する。乾田直播では、プラウにより深く耕起し、バーチカルハロー、ハローパッカー等による砕土鎮圧を行なう。乾田直播で苗立ちを良くするには安定した深さに播種する必要があるが、この体系では圃場を鎮圧することでグレーンドリルの播種精度が向上する。各作業はバーチカルハローを使用する場合を除き、トラクターのPTO駆動がいらないため、高速作業ができる。両体系では耕起方法などの土壌の扱い方や作業速度が大きく異なり、乾田直播では水田で畑作のように水稲を栽培することになる。


水田の耕盤をなくして排水機能を強化する

 従来の移植体系と乾田直播では利用する水田の土層構造が大きく異なる。図2は両体系の土層構造の模式図である。従来の移植体系では作土層と耕盤を含む心土層の2層構造になっている。特に田植機で移植を行なうためには、苗を植えるための軟らかい土層と、深さ15程度に田植機を支持するための固い耕盤層が不可欠である。

 しかし、乾田直播では、乾田状態で畑作のように播種作業等が行なわれることから、土層が2層構造である必要はなく、耕盤もいらない。グレーンドリルで安定した深さに播種するために圃場表面が硬ければ良い。この場合の土層は、地表面から2~3は砕土され膨軟な状態だが、それ以下は鎮圧されることにより比較的硬くなる。

 土層の硬さを表す貫入抵抗値を示したのが図3である。慣行移植体系の代かき圃場では水中で土粒子が撹拌されることにより、作土層の貫入抵抗値が低くなっている。非常に軟らかく、歩く際には耕盤層まで「足がささる」圃場となる。一方、乾田直播圃場の乾田時の貫入抵抗値は、鎮圧作業により地表面付近が硬くなっている。入水後には全体的に貫入抵抗値が下がるものの、代かき圃場の状態まで低下せずに比較的硬く保たれるので、入水後でもすたすたと軽快に圃場を歩ける状態となる。

 現在の水田利用では、水稲収穫時に圃場が乾かないこと、あるいは畑利用時の湿害などが問題になり、耕盤層の存在が地下排水性の低下に起因する場合が多い。耕盤層は非常に緻密で透水性に乏しいためである。乾田直播ではこの耕盤層をなくすことで地下排水機能が強化される。よって、水田から畑への転換が容易になり、播種時期に圃場が乾きやすくなる。

 また、乾田直播圃場では20以上の深耕が可能であることからも、これまでのように耕盤層が長期的に維持されることがない。深耕は前作の作物残渣の埋没が主な目的であるが、従来よりも深く耕起することによりこれまで未使用だった土層を利用できるという期待もある。


排水機能と湛水機能の切り替えが成功のポイント

 耕盤をなくすことにより圃場排水が良好になり、水田畑作や乾田直播の適性が高まるが、一方で水田に水を溜められるかが課題である。

 移植体系は、代かき作業により圃場を均して用水の漏水を防ぐことができるので、全国各地での適用性が高い。また、水田に入水して作業を行なうため、降雨の影響は受けにくい。しかしながら、代かきを行なわない乾田直播では入水まで乾田状態で作業をする。したがって、降雨による作業遅延などの影響は避けられない。降雨後の作業を円滑に行なうためには、圃場の排水性を高める必要がある。

 さらに、入水後は慣行の移植体系と同様に湛水して管理するため、湛水機能も維持しなければならない。特に湛水機能が不十分だと、除草剤効果の低下、肥料の流出、用水量の増大、水温上昇の抑制などの問題が生じる。除草剤(一発処理剤)の効果を得るには日減水深が2/日以下であることが望ましく、圃場条件によっては代かきをしないでこの条件を満たすのが困難な場合がある。乾田直播では天候に左右されずに圃場作業を可能にする排水機能の発揮とその後の湛水機能の確保かつ漏水防止が成功のポイントである。

 乾田直播圃場の排水機能から湛水機能へ切り替えが容易か否かは、水田の基盤条件、すなわち本来、湿田であるか、乾田であるかによるところが大きい。もともと水もちの良い湿田であれば、播種期までの排水機能が問題となる。一方、慣行栽培において湛水機能を得るために代かきが必須とされる乾田では、縦浸透の増大に伴う漏水が問題となる。よって水田の基盤条件の違いにより乾田直播を成功させるための対策技術が異なることから、対象とする水田がどのように湛水されるかを把握することが求められる。

関連記事

powered by weblio