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【紀平真理子のオランダ通信】
HEMP FLAX社訪問記
- 紀平真理子
- 第4回 2013年10月21日
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初めに日本の麻栽培の現状を伝えたところ、Markはたいへん驚いていた。なぜなら、彼らの所有する麻農場だけでオランダに600ha(2、30の農家)、ドイツに30ha、ルーマニアには150haに加え、来年には600haが追加されることが決まっており、1000haを超える規模だからである。オランダとドイツの約半分は契約農家によるものだという。しかし一方で、「日本と違って麻繊維の卸値はキロ1ユーロ(日本円で130円前後)で高くないんだよ」とこっそり教えてくれた。さらに、市場価格について聞いてみると、「麻製品が高価なのではなく、ほかが安すぎる。燃料や農薬を多く使って作られたもののほうが安いなんて矛盾した世の中だ」と少し興奮ぎみに語っていた。
現在、ヨーロッパには12社の麻製品メーカーがあり、オランダには同じ地域に2社が構える。フランスが最も多く、ほとんどが麻パルプ加工に特化している。また、自動車関連部品やビル素材も提供する麻加工メーカーが存在しており、HEMP FLAX社もその一つに含まれる。
オランダでは5月上旬に播種するところから始まり、8月上旬に4mに育った麻を6、70の長さで切断する。この刈り取り作業には自社で改造したコーンハーベスターを用いる。その後、浸水機で二度湿らせ、圧縮機を使用してスクエアベールを成型すると、9~6月の期間、高温多湿の倉庫で保管する。
同国での麻栽培に関する規制もMarkに聞いてみた。第二次世界大戦後、オランダも日本と同様、すべての麻栽培が禁止された。だが、1980年代後半から90年代にかけて多くの専門家が麻の有用性を訴えるとともに、HEMP FLAX社の社長も政府に働きかけたところ、90年代前半から規制緩和が実施されたという。大まかに説明すると、農家であること、THC値が0・2%以下の品種を栽培すること(コーヒーショップで販売されているものはTHC値が15~20%)、政府指定の品種(約45)を栽培すること、に従えば簡単に麻が栽培できるそうだ。栽培に着手すると決めてから実際に始めるまで1年もあれば問題なく事が進められるという。
同社にとって最も重要な製品は何かを尋ねた。ヨーロッパでの麻繊維適用率が55%を占める紙パルプあたりだと予想していたが、見事に裏切られた。答えは、麻繊維を使った内装を主とする自動車部品だった。
彼らの最大の顧客は自動車関係の部品会社だという。麻繊維はガラス繊維より1/10のエネルギーで製造できるため、BMWは環境に配慮した企業として麻繊維製品を使用している。一方、BUGATTIは環境に配慮しているとはいえないものの、ガラス繊維より強いうえに30%軽い麻繊維が速いスピードを出すのに好都合として採用しているという。自動車部品マーケットは大きいが、この麻加工技術を持つ企業はまだ多くないそうだ。
今後、期待できる商材として、Markは麻繊維を使った断熱材があると自信満々に語ってくれた。音吸収、湿気調整、保温保冷効果に優れ、自然素材のため、吸収した水分を自然と放出する効果があることがEuropean Industrial Hemp Association(ヨーロッパ工業用麻協会)の実験で証明され、麻に対する評価が高まっている。
「麻繊維配合の建築素材は軽くて柔軟性があるからお勧めだよ。地震が多い日本に向いているんじゃないかな」
営業トークが始まってしまったので少し軌道修正し、机に置いてあった一見するとプラスチックでできたような植木鉢について聞いてみた。すると、それは麻粉末が6割、バイオプラスチックが4割配合された、圧縮形成の“つぼ”だった。
「なぜ麻繊維以外のものを混ぜたのかと散々エコロジストたちに批判されるけど、僕は理想主義者であると同時に現実主義者なんだ。麻のみで製造すると70℃で溶けてしまう。これで使用上の不備を起こすよりは、化学製品を配合して徐々に改良を加え、最終的に100%麻製品にしたほうがいい。そうすればお客様も抵抗が少なく、受け入れやすいだろう」
ここでまたMarkの営業トークが始まった。
「そうそうAH(オランダの最大手スーパーマーケット)で売っているカイワレ大根の下に敷いてある布はうちの麻繊維だよ」
ちなみに、HEMP FLAX社では収穫した麻をすべて利用しているという。約25~30%は繊維、約50%は粉砕した後で加工する。繊維の収穫量は多くないが、価格は粉末より高いそうだ。
その他の製品ラインナップには、ペット用飼料、革製品用オイル、猫の砂などがある。また、洗面台や電動バイクの外装部も麻繊維で製造する予定だという。こうして同社は、社会に少しでも麻製品が浸透し、受け入れてもらうためにさまざまなアプローチから製品を開発している。
Markはヨーロッパの麻生産の状況と麻製品に関して説明した後、こうつぶやいた。
「もし日本で麻農家や麻製品メーカーを始めたい人がいればいつでもノウハウ提供や技術支援をするよ。それにしても日本は麻マーケットに可能性がある。当社も検討しようかな」
現在、ヨーロッパには12社の麻製品メーカーがあり、オランダには同じ地域に2社が構える。フランスが最も多く、ほとんどが麻パルプ加工に特化している。また、自動車関連部品やビル素材も提供する麻加工メーカーが存在しており、HEMP FLAX社もその一つに含まれる。
オランダでは5月上旬に播種するところから始まり、8月上旬に4mに育った麻を6、70の長さで切断する。この刈り取り作業には自社で改造したコーンハーベスターを用いる。その後、浸水機で二度湿らせ、圧縮機を使用してスクエアベールを成型すると、9~6月の期間、高温多湿の倉庫で保管する。
同国での麻栽培に関する規制もMarkに聞いてみた。第二次世界大戦後、オランダも日本と同様、すべての麻栽培が禁止された。だが、1980年代後半から90年代にかけて多くの専門家が麻の有用性を訴えるとともに、HEMP FLAX社の社長も政府に働きかけたところ、90年代前半から規制緩和が実施されたという。大まかに説明すると、農家であること、THC値が0・2%以下の品種を栽培すること(コーヒーショップで販売されているものはTHC値が15~20%)、政府指定の品種(約45)を栽培すること、に従えば簡単に麻が栽培できるそうだ。栽培に着手すると決めてから実際に始めるまで1年もあれば問題なく事が進められるという。
HEMP FLAX社の麻製品
同社にとって最も重要な製品は何かを尋ねた。ヨーロッパでの麻繊維適用率が55%を占める紙パルプあたりだと予想していたが、見事に裏切られた。答えは、麻繊維を使った内装を主とする自動車部品だった。
彼らの最大の顧客は自動車関係の部品会社だという。麻繊維はガラス繊維より1/10のエネルギーで製造できるため、BMWは環境に配慮した企業として麻繊維製品を使用している。一方、BUGATTIは環境に配慮しているとはいえないものの、ガラス繊維より強いうえに30%軽い麻繊維が速いスピードを出すのに好都合として採用しているという。自動車部品マーケットは大きいが、この麻加工技術を持つ企業はまだ多くないそうだ。
今後、期待できる商材として、Markは麻繊維を使った断熱材があると自信満々に語ってくれた。音吸収、湿気調整、保温保冷効果に優れ、自然素材のため、吸収した水分を自然と放出する効果があることがEuropean Industrial Hemp Association(ヨーロッパ工業用麻協会)の実験で証明され、麻に対する評価が高まっている。
「麻繊維配合の建築素材は軽くて柔軟性があるからお勧めだよ。地震が多い日本に向いているんじゃないかな」
営業トークが始まってしまったので少し軌道修正し、机に置いてあった一見するとプラスチックでできたような植木鉢について聞いてみた。すると、それは麻粉末が6割、バイオプラスチックが4割配合された、圧縮形成の“つぼ”だった。
「なぜ麻繊維以外のものを混ぜたのかと散々エコロジストたちに批判されるけど、僕は理想主義者であると同時に現実主義者なんだ。麻のみで製造すると70℃で溶けてしまう。これで使用上の不備を起こすよりは、化学製品を配合して徐々に改良を加え、最終的に100%麻製品にしたほうがいい。そうすればお客様も抵抗が少なく、受け入れやすいだろう」
ここでまたMarkの営業トークが始まった。
「そうそうAH(オランダの最大手スーパーマーケット)で売っているカイワレ大根の下に敷いてある布はうちの麻繊維だよ」
ちなみに、HEMP FLAX社では収穫した麻をすべて利用しているという。約25~30%は繊維、約50%は粉砕した後で加工する。繊維の収穫量は多くないが、価格は粉末より高いそうだ。
その他の製品ラインナップには、ペット用飼料、革製品用オイル、猫の砂などがある。また、洗面台や電動バイクの外装部も麻繊維で製造する予定だという。こうして同社は、社会に少しでも麻製品が浸透し、受け入れてもらうためにさまざまなアプローチから製品を開発している。
Markはヨーロッパの麻生産の状況と麻製品に関して説明した後、こうつぶやいた。
「もし日本で麻農家や麻製品メーカーを始めたい人がいればいつでもノウハウ提供や技術支援をするよ。それにしても日本は麻マーケットに可能性がある。当社も検討しようかな」
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紀平真理子 キヒラマリコ
1985年、愛知県生まれ。2011年、オランダへ移住し、食や農業に関するリサーチ、本誌や馬鈴薯専門誌『ポテカル』への寄稿を開始。2016年、オランダVan Hall Larenstein University of Applied Sciences農村開発コミュニケーション修士卒業。同年10月に帰国し、農業関連記事執筆やイベントコーディネート、海外資材導入コーディネート、研修・トレーニング、その他農業関連事業サポートを行なうmaru communicateを立ち上げる。今年9月、世界の離乳食をテーマにした『FOOD&BABY 世界の赤ちゃんとたべもの』を発行。食の6次産業化プロデューサーレベル3認定、日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。
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