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新・農業経営者ルポ

俺は農業で人の心を満たすと決めた

大阪府枚方市で杉・五兵衛を経営するのじま五兵衛(64)は、農業に逆風が吹き荒れる高度経済成長期にあって、先祖代々数百年前から続いてきたその仕事を当たり前のように受け継いだ。そのために彼が心を砕かなければならなかったのは、生産一辺倒とは別の経営を生み出すこと。戦後からの食糧増産の時代が終わることを見通した彼は、農業を通して人の心を満たすことを目指した。 文・撮影/窪田新之助、写真提供/杉・五兵衛 (※のじま氏の漢字がパソコンで表示が出来ない旧字なので平仮名表記とさせていただいております。PDFでは漢字表記しています、ご参照ください。)


都会にぽつんとある憩いの空間


杉・五兵衛のホームページを見ると、小高い場所から丘に囲まれた園内を映した1枚がある。時節は春。周りの木々は葉を繁らせ、その中で桜やナタネの花が咲いている。筆者が伺った10月下旬には、ミカンや柿が実を付け、畦際に並んだコスモスの赤色や桃色が風に揺れていた。広々として起伏に富んだ園内の歩道を人々は自由に散策し、季節ごとに色づく草花や果物を鑑賞できる。
訪れる人を楽しませるのは植物だけではない。牧場とそばの小屋にはそれぞれロバと鶏がいて、餌やりができる。ロバの糞は堆肥にして畑に投じ、農薬も化学肥料も使わずに野菜を育てる。野菜くずはロバと鶏の餌になる。5haの畑で取れる野菜や果物、鶏卵などは一切出荷せず、本館で販売したり、レストランで調理して客にふるまったりする。「ロバがいて、人がいて、野菜がある」のだ。
この日は日曜日。蓮の池や牧場で憩う人たちを見かけた。ロバに餌を与えていた子連れの主婦は「ここのお店で売っていた卵は、ここの鶏さんが産んだんだよって、子どもたちに教えてあげたところです。動物と触れ合うことを楽しみながら、食べ物のことを学ぶって、いいですよね」と笑った。
ホームページには先ほどの園内の写真とともに、のじまの「信念」が記されている。少し長いが紹介する。
「農耕とは自ら種を播き、耕し、育てそしてそれを食した。その育てるという過程におのずと教育が生まれ、花が咲き 実がつくことにより情操が育まれる。さらに収穫したものをいかに蓄え活かし食するかという中に文化が芽生える。農業という産業に分化してからは、いかに多くの金銭を得るかとする事ばかりに重点が置かれ、農の楽しみがなくなり教育や文化迄もが衰退してしまっている。農家にとって農地は仕事場であり生活の場でもある。まずはそこを快適な場(大木があって緑の空間があり草花が咲くような)誰もがそこに住みたくなる様な場にするのは当然のことであるのに 今迄の農に対する考え方にはその事が全く欠如している。農園 杉・五兵衛の農園は農場の意ではなく、農業を越えた農耕を意味します。すなわち経済は農業として潤し、かつ教育、情操、安らぎ、文化をも含み 経済の奴隷にならず大地に働く誇りを持った営みと考えます。」
のじまは大学卒業後の22歳にしてここの原型を築いた。現在に至るまでの彼の歩みをまずはたどりたい。

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