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シリーズ水田農業イノベーション

特別編 水田での子実トウモロコシ生産の実際(後編)~国内生産と地域での耕畜連携の未来像~

農政改革では減反の見直しが提示され、所得補償制度から経営安定対策として交付金の見直しが行なわれた。水田で子実トウモロコシを栽培すれば、飼料作物としての3万5000円という交付金が受給できる。しかし、水田作物の中で、投下資本・投下労力が少ないからこその戦略作物であることが、低コスト生産を可能にしている。これまでは輸入に頼ってきた全国の需要者である中小規模の酪農家や畜産家と手を組むこと、ここに見出される国内での子実トウモロコシ生産の可能性について述べてみたい。
多くの一般メディアは「減反政策」が廃止されるかのごとくに今回の農政改革を宣伝しているが、それは誤りである。農協機関紙である日本農業新聞が2013年12月2日付けで、自民党農業基本政策検討プロジェクトチームの宮越光寛座長のインタビューにあわせて、こう伝えている。一面トップに掲げた記事で同紙は、宮越座長の言葉を借りて「新たな米政策について『米価下落を誘引することは全く考えていない』と述べ、『生産調整の廃止ではなく、(手法の)見直しだ』と強調した。飼料米への作付転換で主食用米の需給を調整し、適切な米価を維持する考えを示した」と、今回の農政改革中身を正しく解説している。
減反政策とはコメの供給量を政策的に削減し、高米価を維持することである。読者はすでにお分かりだろうが、今回の農政転換とは減反政策の廃止ではない。宮腰座長が述べたとおり、生産調整の廃止どころか飼料米の増産とそれに対して10a当たり最大で10万5000円という法外な交付金(アメ)を支払うことで、結果的に主食用米の生産を制限して米価を維持しようという減反政策そのものである。米価は下がらず、飼料米の増産と交付金増額まで勝ち取った農協界の全面勝利といっても過言ではない。TPPにあれほどの反対運動を展開した農協界が静かなのは、それが彼らにとっておいしい改革だからだ。
今回、政府が示した方向性とは、(1)コメ生産調整に関して行政による生産目標数量の配分をやめること、(2)民主党政権下で行なわれた10a当たり1万5000円の「戸別所得補償」を5年後に廃止すること、(3)その代わりに飼料稲および稲WCS(稲ホールクロップサイレージ:青刈りした稲を乳酸発酵させて飼料化したもの)の増産とその交付金を増額するという三点である。
「行政による生産目標数量の配分をやめる」ということは、02年の「米政策改革大綱」策定時に示されたことで、それを追認しただけである。この大綱が発表されたときにはどのメディアも減反政策廃止などとは言わなかったのに、なぜ今回はそうなるのだろうか。
飼料価値の低い飼料米の振興は、莫大な財政負担を伴う馬鹿げた飼料自給の方法である。同時に、何の技術革新もなく取り組めて、水田イノベーションの核となる畑作作業機での水稲生産の低コスト化を進める上でも障害となるのだ。
読者の中には、減反政策が続くことでコメの価格が下がらないことを歓迎する向きもあるかもしれない。その気持ちは理解できるが、仮にTPPでコメの「聖域化」がなされたとしても、今のままの高米価でのみ成立するような水田経営ではもとより未来はない。高米価維持によってではなく、低コスト化による利益確保や新しい顧客満足を作り出すことで水田経営を実現せねばならない。農業団体と政府の政治的パフォーマンスに農業経営者たちは踊らされてはいけない。

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