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特集

障害者や高齢者らとつくる農業経営




CASE1
世界一の評価を得た
「非効率」なチーズづくり

2008年7月に開催された北海道・洞爺湖サミット。その会食の席で、当時の米国のブッシュ大統領やイタリアのベルルスコーニ首相らをうならせたナチュラルチーズがある。北海道新得町の農事組合法人・共働学舎新得農場が製造・販売する「さくら」だ。名前のままに、塩漬けにした桜の花をチーズに載せた逸品。福田康夫首相が気に入っていたことで国賓たちに供された。
新得農場はチーズづくりで世界にその名を知られている。「さくら」にしても、山のチーズオリンピックのスイス大会での金賞とグランプリ、同イタリア大会での国際チーズ特別賞をはじめ、モンドセレクション最高金賞など国内外で数々の栄冠を獲得してきた。それは代表の宮嶋望(62)とともに働く、心身でさまざまな悩みを抱えた人たちによる長い時間をかけた結晶である。
彼らが所属する共働学舎は宮嶋の父・眞一郎が1974年に創立し、2006年にNPO法人化した。運営協力のための会員制度を設けている。正会員の場合、入会金は1000円、年会費は6000円。知能や身体などに障害がある人や不登校児、非行少年少女らが「メンバー」だ。
長男の宮嶋が代表の新得農場とNPO法人の経営は別々。農場がNPO法人に作業を委託して、その対価を支払う格好になっている。新得町以外にも、北海道小平町や長野県小谷村、東京都東久留米市に拠点があり、別の人たちが代表を務める。
今回の舞台である新得農場でのチーズづくりについて話す前に、ここでの衣食住を紹介しよう。
筆者が訪れた年の瀬、辺りは雪に包まれて静まり返っていた。緩やかに見えるけれども、実際には20度あるという傾斜にいくつかの建物が寄り集まっている。車で山道を上がっていくと、まずは喫茶店とチーズの直売所を兼ねた、窓ガラスを大きく取っていて開放的な交流センター「ミンタル」(アイヌ語で「神々が遊ぶ場所」の意味)が迎えてくれる。その奥に牛舎や加工場、さらにメンバーが寝起きする2階建ての寮やメンバーが個別に建てた自宅が立ち並ぶ。
ここで働くメンバーは69人(男27人、女42人)。各自がNPO法人から賃金をもらいながら、ホルスタインとブラウンスイスといった牛の世話やチーズづくり、コメやソバ、野菜の生産に携わっている。料理や掃除を受け持つ人もいる。または、全国から寄付される古着をほどいて織機でコースターやマットを織る。他にもさまざまな工芸品を作っては「ミンタル」で売る仕事もある。何をするかは個人の自由。

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