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特集

小さな顧客と価値を共有する経営者たち


マーケットに目を向けてみる。そこには、久松農園が戦ってはいけないマーケットがあるという。
「例えば、トマトを1個50円で売る、という競争はやりません。理由は二つ。一つは、高コストな栽培をしている僕たちに1個50円のトマトは生産できないから。もう一つは、50円のトマトにひかれる人は、もっと安い品物が出てきた場合にそちらに行ってしまうため、営業上の資産にならないからです。小規模の場合は、勝たなくていいから負けないことが大事です。そのためには、勝てない土俵に乗らないことです」
したがって、大手流通を通じた大きなマーケットではなく、個人顧客という小さいマーケットを土俵とし、100%直販するという経営を選んだ。
「適した時期に適した品種を鮮度よく届ける、という基本を忠実に守れば、他よりもおいしいものが届けられます。それには直販が合理的だろうと考えています」
久松氏は、販売も手がけるメリットを次のように分析している。
「多くの農家は、少ない品目の生産に特化しています。その結果、生産の中ですべてのソリューションを考えています。生産効率、生産量を追求する。僕たちは販売までやっているのでソリューションの幅が広い。打てる手がいくつもある、と思います。栽培については、それに絞っている人に勝てないけど、総合的に考えて勝つ余地があります」
直販の方法も合理的に考え、セットで販売している。
「栽培方法の制約上、多品目をローテーションしているので、たくさんの種類の野菜ができてしまいます。そのため、複数の種類の野菜をセット販売する方法をとっています。単品ではなく、セットとしての価値を高めるやり方です。これは、販売方法としても優位性があります」
価格の設定は経営の考え方によるが、久松氏の場合、「お取り寄せ」のような一時的な購入ではなく、個人顧客に継続的な購入をしてもらうことを選択して価格を設定している。
「基本的に、一般消費者向けは定期購入のシステムをとっています。価格は、既存の野菜セットの相場から始めました。最初は、生産することに精一杯でしたから、生産したものは全部引き取ってほしいと考えていましたが、年々、いいものだけを選んで出したいと思うようになりました。当然、栽培の手間は増えます。コスト増の分を価格に転嫁させてもらったこともあります。現在の価格も、生産コストや品質を考えると、もう少し高くてもいいかなというくらいですが、宅配の野菜の中ではそこそこの価格帯にしています。売る側と買う側の双方に納得感がある価格帯にして、顧客に長く付き合ってもらいたいと思っています」

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