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特集

小さな顧客と価値を共有する経営者たち


本誌の連載からわかるように小川氏は虫と農業との関係性を探り、農業に活かすことが好きである。
「特定の害虫がある年に一斉に増えて、数年続くことがあります。いろいろな野菜を作っていると、虫の種類も多くなり、自然と、そういったリスクが避けられる農場ができやすいです。みんなが有機肥料をまいているのと同じです。化学肥料の一つの成分だけではなく、いろいろな成分があったほうがいいという意味で」
虫好きは、今や農家仲間や取引先も周知のことであるが、野菜の品種についてもマニアックな一面を見せる。
もともとは、顧客に売るために多くの品種を栽培するようになったのだが、売るためだけではない栽培もしている。昨年は、50品種のズッキーニを作ってみたという。
「たまに、なんでもかんでも作りたくなるんです。でも昨年のズッキーニに関しては失敗です。1日1000個ぐらい採れちゃって。こんなふうに新しくやってみたことは経営上では8割方失敗なんですが、2割は成功だと考えています。というのは、ズッキーニってこんなに種類あるんだって気づいてくれたお客さんもいるんですよ。比較することで、お客さん自身、自分が欲しいものは何なのか選べるようになるようです。僕のほうは、いろいろな品種の特徴を比較することで栽培技術がつくので、悪いことばかりでもないです」
虫と農業との関係性に詳しかったり、珍しい品種の栽培を楽しんだりしている、このマニアックな面こそ強みであるようだ。
「取引先とは、農薬を使っていないとか、そんな話はしません。品質が良い野菜を提供することは当たり前です。僕のお客さんたちが喜んでくれる理由の一つは、『いや、それはできません』と言わないことだと思います。新しい何かを期待してくれるんだと思います。情報であったり、珍しい野菜であったり。
でも、僕から野菜を買ってくれる一番の理由は、『何やってるんだ、こいつ』と思っているためだと思います。僕の野菜を食べるとき、または、飲食店なら人に料理を提供するとき、『こんな変わった人がいてね』と言いながら食べたり、提供したりしてくれている、と思うんですよね。僕の野菜の独特の価値は、そこに尽きるのかなと。僕が作っているからおいしい、ということではなくて、『あそこのこういう人が作っている』と想像してくれることも、おいしいという感覚につながるんだと思います」
食べものを食料として食べるだけではなく、食べものの背景に作り手や野菜のストーリー性を感じて楽しみたいという人たちが多いだろう、という。そのことは、前述の久松氏とも話すことがあるという。

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