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シリーズ水田農業イノベーション

名取市の大規模水田での稲‐麦‐大豆2年3作の実証試験(前編)~仙台平野津波被災地域での大区画水田の造成~

プラウ耕鎮圧体系乾田直播の普及

グレーンドリルを用いるプラウ耕鎮圧体系乾田直播は、岩手県花巻市の盛川農場の60a2枚の圃場から始まった。今でこそ、グレーンドリルを用いた乾田直播は北海道・東北の大規模経営層にかなりの面積で普及しているが、2007年当時は東北農研センター所内圃場での実績があるのみで、花巻での初めての現地試験に緊張して臨んだ。
一定の苗立ちと移植栽培と同等以上の収量が得られたことから、08年には栽培面積を増やし、盛川農場での実証試験の様子を本誌に6回に渡って連載することになった(連載『大規模輪作営農のための乾田直播技術』:08年9月号~09年2月号に掲載)。プラウ耕鎮圧体系乾田直播の技術の特徴や、各作業のポイントを解説しながら、試験圃場の生育や栽培管理を順追ってリアルタイムで連載する作業は、かなりのプレッシャーであったが、本誌の読者から「連載を楽しみに読んでいる」、あるいは「自分も取り組みたい」という問い合わせを多数いただいた。この連載の効果は大きく、乾田直播の適地と目される仙台平野、津軽平野、北海道の石狩平野で翌年から取り組みが始まった。
東北農業研究センターの1.9haの大規模圃場に大勢の農家が見学に来るようになったのも09年からである。強烈に鎮圧した圃場は、不耕起栽培の圃場のように硬く歩きやすく、見学者を前に水田の中を長靴でスタスタと歩いて見せると、一様に驚いた顔をされ、「これまでの稲作とは全く違う」ということを感じとってもらった。
図1は、土を考える会が主催した「雪国直播サミット」で東北農研センターの大規模圃場の見学を行なったときの写真である。乾田直播栽培に取り組む東北・北海道の農家が、東北と北海道を交互に訪れ、圃場を見ながら議論する見学会は参加者に刺激を与え合い、技術が進展した。北海道では岩見沢を中心として乾籾播種技術が開発された。東北では鎮圧による湛水と排水のコントロール手法の技術開発が進展した(本シリーズ第5~6回参照)。
盛川農場での実証試験は5年間行ない、最終年の11年は9.4ha(17枚)で実施し、水稲作付面積の63%となった。盛川農場での実証結果をもとに作成した乾田直播栽培マニュアル(*後注)では、実際の経営に乾田直播を導入した際のコスト削減効果を詳細に記載している。東北農研センターが育成した直播適性の高い品種「萌えみのり」を用いることで600kg/10a程度の収量が得られ、米60当たり費用合計は、東北平均と比較して55%程度まで低減している(図2)。実証試験終了後も盛川農場の乾田直播面積は増えており、13年の水稲作付面積22.4haのうち乾田直播は13haであり、直播栽培で水稲の面積拡大が行なわれている。

乾田直播の適地、
仙台平野への普及

仙台平野は、北上側と阿武隈川に挟まれた東北太平洋側の唯一の平野部である。水田土壌の9割が黒泥・泥炭、グライ土、灰色低地土で、概して肥沃で水持ちが良く、1haの大区画に整備されている地域も多い。加えて、積雪がほとんどないため、東北地域では仙台平野は最も乾田直播を導入しやすい適地と言える。
筆者は石巻普及センターからの依頼で石巻市桃生町を中心としたエリアで09年からプラウ耕鎮圧体系乾田直播の営農指導に出向くようになった。石巻普及センターからの依頼の元は桃生町の大規模生産法人T農産の要請である。T農産の経営者は本誌の盛川農場の連載記事を読み、東北農研センターの大規模圃場にも見学に来られた方だった。石巻普及センター、JAいしのまきとの共同で研修会が開催され、09年は桃生、河南、矢本、鳴瀬の6戸の農家で合計5haから乾田直播による稲の作付けが始まった。

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