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特集

天候の異変を読む経営 異常気象時代に生き残るリスク管理



弘前市の木村図氏(岩木山りんご生産出荷組合組合長、株式会社A・パートナー代表取締役)は「あのとき、何とか台風のコースを予測できないものかと考え始めた」と語る。「青森県に台風が上陸することは少ない。しかし、それだけに台風の影響は大きい。と言うのは、直撃を受ければ落果するか実がぶつかり合って傷が付いてしまうから、台風が来そうだとなればりんご農家はまだ色が上がる前でも収穫してしまう。ところが、うまくコースがそれたとなれば、安い価格でしか売れないりんごを収穫したことになってしまう」
台風が来るか来ないか、精度の高い予測が必要だ。テレビなど一般に伝えられる天気予報では、木村氏が求める精度を満足できなかった。
「それで、昔から伝わる天候予測の方法にも関心を持って調べ始めた。そこで出合ったのが“寒だめし”という方法だった」
寒だめしは江戸時代に全国的に流行した天候予測の方法で、寒の入り(小寒)から立春までの30日間の気温、降水量、風速などの変化が1年間のそれと相似であると考えるものだ(詳細は左ページの囲み参照)。
木村氏は寒だめしを実践して20年以上になるが、「これで助けられたことが何度かある。はずれて痛い目に遭ったのは、寒だめしの結果が示唆する異変を自分で勝手に何かの間違いと甘く解釈したときだった」

【1年を見通した計画 気象変化をつかむ感覚】

とは言え、寒だめしは今日の科学で正しさが証明されているわけではない。この方法を懐疑的に見る向きもあるだろう。
ただ木村氏は、寒だめしを実践するメリットは、単にそれが当たるかどうかだけではないと考えている。
「年の初めの時期に、1カ月間のデータを見ながらその1年のことを自分なりに予想し、思いを巡らせること自体が経営に役立っている。風の影響がありそうな年だと読めば、立ち枝を抑えて下枝を増やす年にしようとか、逆に穏やかな年だと読めば枝を多くしてたくさん成らせようとか、暑い日が続きそうだと読めば、剪定を急がなければならないとかと考えるようになる」
その結果、自ずと作業計画を立てて1年の経営に当たることになる。
さらに、自分で予測したことが合っているかどうかをその後も常に気にするようになるため、自ずと気象の変化に敏感になる。だから、台風接近の報に触れたときも、ただ続報を待つのではなく、「来るか、来ないか」を自分で懸命に見極めようとするし、危機へ対処も早くなる。
また、今日はさまざまな観測機器があり、圃場にそれを設置すれば自動的にデータが取れるが、寒だめしでは数字だけでなく、刻々と変化する空気や景色を生身の体の五感で感じ取るべきだと伝えられている。そのように、気象の変化を自分の肌で感じようとする癖が付くことも、寒だめしを実践するメリットだ。

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