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【土門「辛」聞】
農協の既得権益も崩せない規制改革会議 農政改革はまた振り出しに
- 土門剛
- 第116回 2014年04月21日
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中間機構で最大の敗北
【農地】農水省が出してきた農地中間管理機構(中間機構)を蹴飛ばすことができるかどうかがポイントでしたが、農水省案がそのまま通ったことで規制改革会議の敗北になりました。
中間機構、あらためて説明すると、農地の中間受け皿として農地を借受けて担い手へ貸付けをするために新しく設置した組織です。そのこと自体が「規制改革」という名に逆行するばかりか、中間機構が動き出しても、農水省の目論見通りの機能を果たすとは到底思えません。何よりも中間機構は、農業委員会や農地集積円滑化団体が繰り返してきた失敗の反省のうえに立っていないからです。それに借り手のつかない農地でも中間機構に託せば、地主は税金から賃料を手にできるという究極のモラルハザードを招くことだって起こりかねない欠陥制度でしたが、規制改革会議はそこを突くことができませんでした。失敗の原因は何かと聞かれたら、農地所有者の本音をつかめなかったことに尽きると思います。
その本音、筆者流には「農地所有者とかけて何と解く。その心は、ロト6を買って、その当選発表を待つ人々」という説明になります。農業のためというのは上っ面のことで、その本音は、いずれは宅地や公共用地などへ転用してガッポリと儲けたいということではないでしょうか。
ところが中間機構に農地を託せば、10年間の利用権設定が義務づけられます。その間、転売ができなくなるのです。つまりロト6の当選期待権のようなものを放棄するようなことになってしまうのです。したがって、その彼らが農地を中間機構に託すとは思えないのです。
規制改革会議・農業WGにとって最大のミスは、農地問題の肝中の肝、農地のゾーニング(線引き)問題に踏み込めなかったことでした。ゾーニング強化と引き替えに中間機構を認めてやるという戦術のようなものもありませんでした。
中間機構の大きな欠陥は、農地所有者を性善説で見立てて制度設計したことでしょう。多くの農地所有者は、転用期待から中間機構を通さず、これまで通りに借り手と相対取引で農地の賃貸を進めると思います。中間機構には、転用もできず、二束三文とはいいませんが、質の悪い農地が集まってきて、農地所有者に税金をうまく掠め取るような事態が必ず起きてくると思います。
もうひとつの欠陥は、制度の運用を都道府県農業公社のようなところに任せたことです。これこそ農業WGにとって最大の敗北でした。規制改革や行政改革に逆行することになったからです。ここは都道府県の役人の天下り組織です。役人なら公平な運用ができるとでも思ったのでしょうか。彼らに公平無私な制度運用などハナから期待できないというのが、筆者の考え方です。
分かりやすい事例で説明してみましょう。中間機構に良質の農地が持ち込まれました。借り手が2人現れました。一方は農協出荷、他方は個人出荷。さて中間機構は、どちらに農地を貸すでしょうか。答えは決まっています。農協出荷の方を優先するでしょう。都道府県の役人なら、「パブロフの犬」のように農協出荷の方を必ず優先します。パブロフの犬とは、農地と聞けば農協としか反応しないことを指します。この連中は、農業というシーンで、商人系業者が農協と競合していることや、農協にも独禁法が適用されることなど、まるで理解していない、というよりは理解できない人たちなのです。農協天動説で農業を考えてきた人たちですから。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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