ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

有機農業の推進を目指す農業経営者と全国からそこに集う人々

全国の農業者が集うマルタ(東京・神田)は、株式会社であるものの、農協の看板を掲げるJAグループよりもよほど農協らしい組織である。株主はすべて農業者。互いが技術を研鑽する場を設けながら、有機農業を目指している。これは親子2代にわたる農業経営者の物語である。 文・撮影/窪田新之助、写真提供/(株)マルタ
有機農業を目指す農業者集団

今回の主人公である鶴田志郎(72)は、熊本県芦北町の(有)鶴田有機農園で妻のほとり(63)や20人の従業員とともに、15種類のカンキツを作っている。ただ、彼はその園主としての知名度はとても低い。農園の経営は社長である妻に任せ、熊本での農業関係のイベントにもほとんど顔を出さなかったからだ。ほとりは「熊本では主人は亡くなったと思われているの」と、冗談めかして笑う。
代わりに志郎は30歳を超えてからマルタの活動に情熱を注いできた。代表取締役を務めるその組織は、一言でいってしまえば有機農業を目指す人たちの集まりである。そのための勉強会を定期的に開催している。たとえば、今年初めの「冬季全国生産者大会」では、規模別の経営管理のあり方に関する講演に加え、栽培技術とマーケッティングをテーマにした分科会で事例発表があった。こうした勉強会は、各ブロックでも農業者たちが自主的に開く。また、優良な農業経営を視察するツアーも国内で年に1回、海外で2年に1回実施している。
特筆すべきは、これらの学習会には誰でも参加できること。マルタと取引があるかどうか、農業者であるかどうかは関係ない。そういう意味では自由で開かれた組織である。ただ、自由であるからこそ、自分自身に学ぶ姿勢がなければ何も身に付かない。どんな人が参加しているのかを鶴田に尋ねてみると、「変わり者が多いですね」と苦笑いする。
「あるときに気づいたんですが、マルタには専業で、大規模で、高学歴の生産者が多い。だいたい地元では浮いていて、農協や県の普及員があれこれ言ったって聞かないような人ばかり。だから、マルタでは指導はしないんです。従業員には『指導せずに指導するように』と言い聞かせています。あくまでも気づきのヒントを与えるだけで、自分で学んでいくことが大切ですから」
学習会の開催は、参加者から最低限の費用は徴収するものの、会場の運営費や講師料などはマルタが負担している。ではどこから事業収入を得ているかといえば、販売にかかる毎年の手数料。それは売上の5~10%になる。東京・神田のビルのワンフロア―に事業本部を構え、39人の従業員を雇用する。ここで量販店や生協など120ほどの取引先からコメや野菜、果物などを受注し、全国1500に及ぶ会員の農業者や農業生産法人に発注する。農産物の流通については、各地の農業者が直接取引先に発送することもあれば、マルタが事業提携する物流センターで一括集荷して、パック加工して配送することもある。また、グループリーダーや農業生産法人代表などからの2億円の出資金もある。
マルタを通して販売する条件といえば2つだけ。土づくりに熱心であるということと、マルタ方式の生産履歴を提出できることである。有機栽培を実践していなくても構わない。マルタを通して収穫物のすべてを売る必要もない。

関連記事

powered by weblio