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シリーズ水田農業イノベーション

イタリアに学ぶ高密度直播栽培の効果

  • (独)農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター 水田利用研究領域 主任研究員 笹原和哉
  • 第11回 2014年05月19日

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昨年5月号以来の1年ぶりに寄稿させていただきます。イタリアの稲作について、以前示した内容について、今回の予備知識となることをまずはご紹介しておきます。 今後、我が国の水稲栽培の生産費をさらに低下させるためには、生産費低下の方策と同時に、より安定的な直播栽培技術の推進が重要です。一般に日本の水稲直播は、移植に比べて苗立ちが不安定だと評価されており、さらに移植より倒伏しやすく、それが普及のネックとなるという課題を抱えています。その結果、我が国の水稲直播栽培は全水稲作付面積の1%少々の約2万ha弱に溜まっています。
(1)イタリアでの稲作の概要

イタリアは1960年代に移植から直播への転換を経験しています。海外における水稲作について、雇用労賃の低いアジア地域では移植栽培が広く行なわれていますが、雇用労賃の高い欧米の稲作では大規模圃場での直播栽培が一般的です。イタリアでは13世紀に稲作を開始し、 60年代まで移植栽培が行なわれていましたが、70年代以降は直播栽培に移行しています。我が国の稲作が70年代以降、機械移植の普及に伴って直播栽培面積が急減したのと対照的な歴史を有しています。そして、現在はすべての水稲が直播栽培で、全体的に日本よりもかなり低コストで生産されており、コメの生産費は平均的な農業経営で60円台/1kg程度です。湛水直播が多数を占めますが、乾田直播もあります。いずれも無代かきの稲作で、湛水直播の場合は表面散播です。
イタリアは欧州最大のコメ生産国であり、九州全体、あるいは北陸全体の水稲作付面積に匹敵する24万haが北部ピエモンテ州とロンバルディア州において行なわれています。この地域に限ってはアルプスからの雪解け水が流れ込む湿地の平坦な地域であり、中世から稲作が普及しています。なお、この地域の気温の条件は、日本で言えば秋田県のあたりに類似しています。 
イタリアの水稲生産について、近年の研究で新たな知見が得られています。古畑昌巳氏〔1〕は苗立ち率について、イタリア品種は日本品種と比較して全般に高いと報告しています。特に、無代かき条件で日本品種の苗立ち率が低下するのに対し、イタリア品種では安定しています。さらに、イタリア品種は日本品種と比較して、低温条件での発芽速度が速く、低温での苗立ちに有利な特性を持つことを指摘しています。
5月上旬の播種で、20kg/10aという多量の種子をまくのが特徴です。苗立ち本数は300本/平方メートル程度となることが想定されています(図1)。鉄やカルパーコーティングはありません。鳥の被害も非常に少ないとされています。
2節では、イタリアにおける水稲直播の無代かき表面散播後の初期の栽培管理について述べます。図2に栽培暦を再び掲載しますが、私は経営研究者なので、ここではただ経験したことを書きます。読者の皆さまのほうがより稲づくりの専門家なので、それぞれに読み取るものがあると思うからです。
さらに3節では、現地での収穫時期(10月)の坪刈りデータを示しています。前回は20kgという多量の播種を行なうことと、稈長が低いことを指摘しましたが、そうなる理由は述べていません。この点について新たにわかってきたことを主に紹介します。

(2)初期の栽培管理

イタリアで調査した事例では、ブロードキャスターによる湛水直播後に約6日間は湛水して、それから落水します。落水の目的は根を張らせる、風に伴なう水流による苗の移動を抑制するという2点です。具体的な落水のタイミングは第3葉(不完全葉を第1葉とした場合)期に最大の葉が1~2に伸びるころが目安で、当然出芽の揃いも確認します。播種が高密度(約600個/平方メートルに相当)なため、局所的に苗立ち率が1/3(200個/平方メートル)に低下しても生育や収量への影響が小さいといえます。また、播種前に除草剤散布を行なうこと(現地の言葉で「ニセの播種」)によって、雑草を抑制しています。また、播種後の落水中に、根を十分に伸ばさせることによって、転び苗のリスクが減少すると考えられます。
次に主に茎葉を成長させるため入水します。入水のタイミングは、播種後12日ごろからそれ以降に田面が出芽した苗により、隙間なく緑のじゅうたん状になっていることが目安とされています。葉令は3葉以降で、第3葉の葉身が4~5cmに達する時期です。ここで播種量の半分程度、およそ300本/平方メートル以上の苗立ち密度を確保することが目標です。落水期間中に、成長が不十分なうちに雑草が繁茂しそうな場合や圃場が乾きすぎる場合は、早めに湛水するか、一旦湛水して再度落水するといった工夫をしています。

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