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【シリーズ水田農業イノベーション】
イタリアに学ぶ高密度直播栽培の効果
- (独)農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター 水田利用研究領域 主任研究員 笹原和哉
- 第11回 2014年05月19日
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(5)まとめ
イタリアの直播稲作は表面播種において苗立ちが安定しており、倒伏していないことが大きな特徴です。安定した苗立ちを実現する理由は、農業経営者の管理の視点に立つと、苗立ち時期の水管理がわかりやすく明確になっているためだと思われます。鳥害がないということも、重要な差でしょう。また、倒れにくく、稈長が低い品種が普及しています。収量は玄米収量に換算すると、日本よりやや多いか同じくらいです。「押し倒し抵抗」という指標を用いて測定したところ、表面播種にもかかわらず「コシヒカリ」等よりも高い耐倒伏性がありました。さらに個体密度の増加に応じて稈が短くなるという品種特性を、高密度播種が引き出している可能性があります。
今後、日本でイタリア式の稲作を実現するとすれば、ここに記したイタリアの品種特性を持つ品種を日本国内で開発することが第一でしょう。イタリア稲作技術の管理の規範に基づく生産による出芽の安定、高い耐倒伏性について、試験によって再現させつつ、種苗費の増加以上の生産費低下がどこまで可能か、検討していくことが必要と考えられます。
注1:水稲における個体密度と稈長との関係では、図4の日本品種のデータから散播栽培の高密度条件では稈長が短くなります。また、移植栽培の疎植栽培では、疎植条件で稈長が長くなる(伊藤ら〔2〕)ことなどから、面積当たりの株密度が高い条件では稈長が短くなることが示されています。高密度条件では、押し倒し抵抗の低下に伴なう耐倒伏性の低下を、稈長の短縮がある程度緩和しているという考察は、作物学的に矛盾してはいないと考えられます。
引用・参照文献
〔1〕古畑昌巳(2013)「イタリア型湛水直播栽培技術の評価│異なる品種と栽培型における出芽・苗立ちの解析│」、日作紀82(別1)、p20~21
〔2〕伊藤千春ら(2010)「有機肥料施用下での水稲の生育・収量に及ぼす裁植密度の影響」、東北農業研究63、p25~26
〔3〕笹原和哉(2013)「イタリアの稲作を見て日本の農業経営者へ伝えたいこと 前編 後編」、『農業経営者』4月号、5月号
〔4〕笹原和哉・昆吉則・松田恭子(2013)「栽培コスト1/4のイタリア水稲直播栽培3ヵ月の現地密着研究から見えてきたこと」、『農業経営者』3月号、p32~35
〔5〕梅本雅(2007)「水稲直播栽培技術の到達点と今後の方向」、『関東東海農業経営研究』97、p43~46
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笹原和哉 ササハラカズヤ
(独)農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター
水田利用研究領域 主任研究員
1969年大阪府生まれ。1992年東北大学農学部卒。1993年より九州農業試験場(後に(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター)勤務。1997~2009年 湛水点播(ショットガン)直播、暖地型稲麦大豆輪作体系の開発において経営評価を担当。2010年より(独)農研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター勤務。現在、水稲超多収栽培、開発技術評価のプロジェクトに参加。農学博士。
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