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大型トラクターや収穫機の踏圧も「耕盤層の形成」を助長し、作物の成長に悪影響をもたらしていることは明らかである。単年度で見れば、化学資材を投入して、作物の生育を整えていくほうが、経済的であると考えてしまう。だが、サブソイラなどの作業機で耕盤層を破壊し、作土を深く健全に保つ「土壌物理性の改善」は、湿害対策に効果的である。作業効率を重視し、大型機械を圃場に入れる大規模経営こそ、耕盤層の破壊が生産力を高めるカギを握る。
作業機に投資するときの勘定
しかしながら、土づくりの作業機を整えたからといって、生産量が飛躍的に向上するわけではない。日頃からキャッシュ・フローを計算し、投資の経済性を考えておかなければ、その費用は捻出できない。
キャッシュ・フローとは、現金収支のことである。経営者が自由裁量で利用できる金額であり、当然ながら投資の1年単位の原資である。表1は8月号の事例に負債等の項目を加えて、キャッシュ・フローを計算したものである。この経営では一年間で投資(負債の償還を含めた)に利用できる現金収支は 970万円である。次にここから、投資限界額を算出してみることとしよう。
投資の限界額を考えるとき、現状の資産台帳から平均耐用年数を導くことと、負債償還台帳から平均利子率を算出することが絶対条件である。財務諸表から投資の限界額を紐解くことこそ、経営の資金収支を悪化させないことにつながるからだ。
黒字倒産とは、帳簿では利益が生み出されているのにもかかわらず、現金収支が整わなく起きる倒産のことである。自己資金を経営に沢山充当できる人は別として、投資をして再生産ができる経営とするためには、財務諸表から投資の経済性を判断すべきであろう。これこそが、誤った投資とならない極意である。
この事例では、現在5000万円の負債があり、同様のキャッシュ・フローが概ね10年間継続して確保できたとして年金原価係数を用いて算出すると、負債は7800万円が限界で、これが投資の限界額と推定できる。7800万円から先の5000万円を引いた2800万円まで、負債による追加投資が可能であるように思える。ここで追加投資が可能と判断するか、何に投資するかが経営者の思案のしどころである。
土づくり作業機を整え実践しようとするとき、投資の限界額に余裕のある状態に保つことを心がけていないと、作業機の購入や更新はできない。トラクターとコンバインは最新・最高グレードでも財源不足とあっては、今すぐ経済効果が見えにくい作業機は二の次になってしまう。土づくりの効果を出すためには、継続が必要不可欠で長丁場である。もしかすると自分の代では効果が不十分で、後継者に土づくりの継続を遺言に託すこともあるであろう。常日頃より財務諸表から投資の経済性を考えることができ、投資計画を描ける経営者が、土づくりを継続的に実践できるのだ。自分にも戒めて改善中である(苦笑)。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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