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新・農業経営者ルポ

虫の目・顧客の目・地域の目で農業を視る百姓の心意気

千葉県柏市の住宅街にある1.2haの圃場で年間100品目の野菜を生産、市内で直販する小川農園。この地で代々続く農家の後継者が本誌連載でもおなじみ、ムシキングの小川幸夫である。名刺に堂々と刷られた「百姓」の肩書き。地元直販スタイルへの変更、無農薬イチゴ栽培の失敗、福島原発事故……。幾多の試練を乗り越えてきた百姓の心意気を伝える。
文/清水泰、写真/永井佳史、写真提供/小川農園

ミツバチの出迎え

小川農園は、東京に近接する千葉県柏市の住宅街の一角にある。道路を挟んで農園の向かい側にある自宅の敷地に足を踏み入れると、小川より先にミツバチが出迎えてくれた。
小川は、30箱の巣箱で日本ミツバチと西洋ミツバチを飼育している。イチゴ栽培の受粉用に養蜂家からレンタルしたのが最初で、その後購入・繁殖するようになった。いまでは受粉での活用からミツバチの特性に興味の中心が移り、観察や保護が主目的になっている。蜜は販売せず、自家消費もほとんどしていない。ただ、農園にたくさんのミツバチがいることで受粉が活発化する。
「ハヤトウリなんて10株しか植えていないのに、昨年の倍の2000個収穫できました」
筆者の目の前では、ガの幼虫のスムシにやられて崩壊した日本ミツバチの巣板を攻撃性に勝る西洋ミツバチの群れが盗蜜している。弱った日本ミツバチは抵抗を諦め、隅で固まったまま。小川は、「わざと襲わせているんです」と事もなげに言う。
このままではスムシに蜜を全部食べられてしまうが、西洋ミツバチに襲わせることで蜜が移動する。西洋ミツバチの巣箱に集められた蜜は、小川の手で日本ミツバチに分け与えられる。人工的な共生だ。
と、そこにミツバチの蜜を狙って1匹のオオスズメバチが飛んできた。身構える筆者に小川は「針のないオスだから刺しません。最近は飛んでいてもオスとメスの区別がつくようになりました」と言い、そっと捕まえて両手で包み込んだ。ひとしきりオオスズメバチの解説を終えると、両手を開いて空に放った。小川は、頼まれてどうしても駆除しなければならない"スズメバチ"の巣だけは生け捕りにし、焼酎やハチミツ漬けにしたり、冷凍保存したりしている。
だが、都市近郊のオオスズメバチは「危険」だとして、真っ先に駆除されてしまう。その結果、オオスズメバチを天敵とするスズメバチが増殖する。ハチ界の生態系の乱れは昆虫や植物に及び、ひいては生態系全体のバランスを崩すことになる。
将来的にはミツバチも地域の生態系を守る活動に役立てたいという。
「蜜を売って得たお金は、街路花を植えたり、地域の花愛好家たちの活動資金として使ってもらいたい。この地域の花が豊かになれば、ミツバチが増えて採取する蜜も増え、結果的に地域農家の受粉もより活発化します」

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