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実践講座:したたかな農業を目指す経営管理 入るを計り出を制す!

最終章  座して滅ぶより、出でて活路を求めるべし

教訓を伝える帳簿

江戸時代の商人が大福帳(売掛金元帳)と算盤を併せて用いた勘定は、察するに優秀な番頭ほど読み返しながら分析を怠らず、主にその情報を正確に伝え、明日の経営改善や商売に活かしていたに違いない。
この日本独自の帳簿システムも明治維新ののち、1873年(明治6年)に福澤諭吉が米国の簿記教科書を翻訳した『帳合之法』が刊行され、複式簿記の普及により記帳の近代化が進むこととなる。福沢諭吉は列強する欧米諸国に追いつき、日本の富国強兵に極めて有益な手法と感じ、帰国したことであろう。
私は学生時代に複式簿記と出会った。複写伝票を座敷に広げて格闘し、電卓を破壊しそうになったことも度々あったが、初めて貸借対照表と損益計算書が完成したときの晴れ晴れとした達成感は、さながら富士初登頂の感動だった。父を説得し、パソコンに複式簿記で記帳が完成したときは、エベレスト級の山々であったか。登山経験のない者の例えで、米国で複式簿記に感動した、福沢諭吉のように上手に皆さんに伝えられないのが残念である。
若い頃はパソコンによる経営管理が、単に格好良く企業的と錯覚したときもあった。しかし、何より20年分の帳簿から、我が家で起きた出来事を記憶より正確に伝えてくれることが、宝なのである。
帳簿を振り返ると、慌てて肥料を買い足したこと、クミカンが期末にマイナスだったこと、学費が高いこと、メロンで儲かったこと、助成金が収入に加わってきたことなど、さまざまなことが読み取れる。それ以前の祖父や父の帳簿も残っているが、原価を紐解いてみる時間は最高の脳トレになる。
さらに農政変革や時代の移り変わりと併せて、部材の単価から全体像まで眺めると、次年度の計を考える前の極めて有効なウォーミングアップとなるだろう。
いかに忙しいとはいえ、帳簿を時折眺めることを怠ってはいけない。日々心がけていきたい事柄であり、経営者の努めでもある。

曖昧な記憶を、記録で補う

人間の記憶ほど曖昧なものはない。ギャンブルで勝った話、苦労が実った仕事の成功体験談、楽しかった恋バナ……。人の脳はつらいことを忘れさせ、不都合を都合よく解釈するようにできている。一生を上手に過ごすための防衛術でもあろう。
現在の農業経営では多くの資本財を必要とし、情報も賢く得なければ成功は得られない。隣百姓や暦百姓では喰っていけないのである。
今の経営に重要なのは、記録である。詳細で正確な記録こそ必要不可欠な経営管理術である。経営を捉えるとき、記憶と勘だけで物事を図ることが、いかに危険かを想像してほしい。
勘定の章で紹介した出荷伝票の整理、トラクターの稼働時間などの記録を分析することでマネジメントが上達する。1年を1回の経験とすると、経営者の経験は長い人でも50回であろう。誰でも一度でも行き詰まりを感じると、なかなか立ち直ることはできない。特に、食管法を体感していない私たちの世代は、苦労することが苦手である。転ばぬ先の杖として、何事も詳細に記録し、分析するクセをつけておこう。

投資分析は心の安定剤

この連載ではいくつかの投資分析法を解説してきたが、なぜ難しい投資分析を行なう必要があるのだろうか。それは、夢を描いて前向きに投資するのは面白い反面、いつも不安がつきまとうからである。

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