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【土門「辛」聞】
高温障害の多発エリアで大規模稲作 大企業による農業参入の底浅さ
- 土門剛
- 第123回 2014年11月28日
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10月10日付け朝刊が報じた「スシロー、農家とコメ調達契約 まず滋賀で」の記事。短い記事なので全文をアップする。どこがおかしいか、お分かりだろうか。
「回転ずし最大手のあきんどスシローは9日、滋賀県の農家(合計135戸)と契約して調達したコメを使ったすしを全店で提供すると発表した。調達量は400~500tとなり、年間使用量の4%程度を賄う見込み。卸業者から購入する他地域のコメと混ぜて、10日から使う。2015年9月期中に契約農家を茨城や兵庫など7県に広げ、調達量を増やしてコスト削減につなげる」
農業関係者ならピーンとくるのは、「滋賀県の農家(合計135戸)と契約して調達した」という部分。この書き方なら、スシローが、農家グループと契約したように読める。
残念ながら、この記事は、まったくの嘘っぱち。新聞社の編集幹部を騙せてもプロは騙せない。まず135戸という記述から、集落営農組織、農協が組織化した生産グループを思い浮かべた。農協支配の集落営農組織は、よほどのことがない限り、生産したコメを農協以外に出荷することはまずあり得ない。
おかしいなと思っていたら、その謎はすぐ氷解した。同15日付け農業協同組合新聞が報じた、この記事。
「回転寿司の(株)あきんどスシローは、生産者と協働する独自の仕入れスキームを10月から本格的に展開。また、来年から、さらにコメの提携JAを増やす。10月9日の事業戦略説明会で明らかにした」
日経新聞、農業協同組合新聞の記事はともにスシローのプレスリリースによるものだ。後者の記事が、ほぼ事実を表している。契約相手は農家グループではなくて農協で、この場合はJA滋賀蒲生町だったのだ。JA滋賀蒲生町に電話で確認しても、農家は契約にタッチしていないという回答があった。
スシローのホームページを開けば、「海と田んぼ プロジェクト」というページが飛び込んでくる。この8月から取り組み始めたイベントで、お米や寿司ネタになる魚介類の調達にいかに尽力しているか、消費者にアピールするのが目的だ。
JA滋賀蒲生町からの調達契約は、そのイベントと連動したもので、それを伝えるプレスリリースは10月9日に配られていた。「滋賀県の東近江市蒲生町に広がる広大な田んぼ。ここで総勢135戸の生産者の方々の手によって、スシロー専用のお米が作られています」という表現のみ。契約相手については何も触れていない。
それを日経新聞は、スシローが農家と契約したという表現にした。明らかな誤報である。スシロー広報が、農業協同組合新聞とは違った説明を日経新聞にしたとは到底思えない。農家グループを相手に契約したということにすれば、ニュース性があると考えて、「農家とコメ調達契約」と見出しを打ち、堂々の一面トップにしたのだ。
全国紙の朝日新聞や読売新聞は、記事として取り上げずに企業のプレスリリースをまとめて紹介するサイトで取り上げている。これが真っ当なニュース判断だろう。
流通は、「商流」と「物流」からなる。前者は、受発注の流れ、契約的には所有権移転や代金決済などの流れを示し、「金流」とも呼ぶ。後者は、商品自体の物理的な流れのことを指す。
日本経済新聞は、わが国を代表する経済専門紙である。その記者が、このことを理解していないはずはない。この記事は、事実を歪曲して報じたとい点で、ある意味で悪質極まる内容だ。日経新聞は訂正記事を出すべきだと思う。
農業関係者ならピーンとくるのは、「滋賀県の農家(合計135戸)と契約して調達した」という部分。この書き方なら、スシローが、農家グループと契約したように読める。
残念ながら、この記事は、まったくの嘘っぱち。新聞社の編集幹部を騙せてもプロは騙せない。まず135戸という記述から、集落営農組織、農協が組織化した生産グループを思い浮かべた。農協支配の集落営農組織は、よほどのことがない限り、生産したコメを農協以外に出荷することはまずあり得ない。
おかしいなと思っていたら、その謎はすぐ氷解した。同15日付け農業協同組合新聞が報じた、この記事。
「回転寿司の(株)あきんどスシローは、生産者と協働する独自の仕入れスキームを10月から本格的に展開。また、来年から、さらにコメの提携JAを増やす。10月9日の事業戦略説明会で明らかにした」
日経新聞、農業協同組合新聞の記事はともにスシローのプレスリリースによるものだ。後者の記事が、ほぼ事実を表している。契約相手は農家グループではなくて農協で、この場合はJA滋賀蒲生町だったのだ。JA滋賀蒲生町に電話で確認しても、農家は契約にタッチしていないという回答があった。
スシローのホームページを開けば、「海と田んぼ プロジェクト」というページが飛び込んでくる。この8月から取り組み始めたイベントで、お米や寿司ネタになる魚介類の調達にいかに尽力しているか、消費者にアピールするのが目的だ。
JA滋賀蒲生町からの調達契約は、そのイベントと連動したもので、それを伝えるプレスリリースは10月9日に配られていた。「滋賀県の東近江市蒲生町に広がる広大な田んぼ。ここで総勢135戸の生産者の方々の手によって、スシロー専用のお米が作られています」という表現のみ。契約相手については何も触れていない。
それを日経新聞は、スシローが農家と契約したという表現にした。明らかな誤報である。スシロー広報が、農業協同組合新聞とは違った説明を日経新聞にしたとは到底思えない。農家グループを相手に契約したということにすれば、ニュース性があると考えて、「農家とコメ調達契約」と見出しを打ち、堂々の一面トップにしたのだ。
全国紙の朝日新聞や読売新聞は、記事として取り上げずに企業のプレスリリースをまとめて紹介するサイトで取り上げている。これが真っ当なニュース判断だろう。
流通は、「商流」と「物流」からなる。前者は、受発注の流れ、契約的には所有権移転や代金決済などの流れを示し、「金流」とも呼ぶ。後者は、商品自体の物理的な流れのことを指す。
日本経済新聞は、わが国を代表する経済専門紙である。その記者が、このことを理解していないはずはない。この記事は、事実を歪曲して報じたとい点で、ある意味で悪質極まる内容だ。日経新聞は訂正記事を出すべきだと思う。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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