記事閲覧
松尾 そもそもコメを作っても売れないということですよね。
昆 800万tの需要しかありません。自給圏の中で畑地を増やすにはどうしたらいいですか。
松尾 たとえば、大豆を作る人がいても水田の隣で大豆を作ると醤油や味噌や豆腐にするための品質の良い大豆が作れないわけですね。でも、水田を続けていることを責められない事情もあります。北海道の美瑛町の100年史を見るとわかります。コメが余り出したころ、美瑛町では農林省に言われて水田を畑地にしましたが、何をやってももうかりませんでした。加工工場に売らない限り市場に出すことになる。つまり、その作物は増産になるから価格は下がるわけです。だから自給圏の中で、たとえば、醤油、味噌、豆腐の加工工場をつくり、地元の消費者がその商品を買えば、畑で作った大豆が売れる。農家は水田を畑地に変えられる。つまり、コメの代わりに他の作物を作るということは、個人ではできないことで、組織的な合意が必要です。だから、自給圏のメンバーが集まって、こんな農村をつくりましょうというビジョンを創る必要があるのです。
カルビーの初代社長である私の父は、北海道の芽室町の農家にポテトチップをつくりたいと相談に行きました。そこで、仲間が集まってカルビーのポテトチップ事業を応援する農家グループができました。それが芽室農協の中の加工馬鈴しょ生産組合になっていくわけですね。団結する集団がないと水田を畑地に変えられません。市場経済は個人戦ですが、これからは団体戦の時代になるでしょう。
ビジョンを創るには、このような歴史に学んでもいいですし、40年前に疲弊した農業だった欧州がいま、どんな成長を遂げているか視察するのがよいでしょう。
畑地に変えるというビジョンを持った場合は、まずは有力な水田農家が小面積でいいですから自分の水田をつぶして畑地にするというモデルをつくることを勧めています。たとえば、水田だったところで300kgの大豆がとれるようになるには輪作ですから5年はかかると思っています。地域の人たちに「なるほど。畑地にすれば、水田で作るよりも収益があるんだな」とわかってもらうためにはいくら理屈を言ってもだめです。実例をつくって見せることですね。
昆 とくに府県の水田地帯の農地には、小さな地権者が大勢いて、ダイナミックな畑地がつくれない状況にあります。でも、そういう人たちがあと数年で農業を辞めていくでしょう。すると、隣の水田の水の影響を受けない、ダイナミックな畑地をつくることもできるようになると思います。
会員の方はここからログイン
松尾雅彦 マツオマサヒコ
カルビー(株)
相談役
1967年カルビー入社。宇都宮工場長、取締役を経て、80年カルビーポテト設立と同時に社長就任。北海道を中心に全国でジャガイモの契約栽培と貯蔵体制を確立し、ポテトスナック原料調達システムを整備する。92年カルビー社長、06年から相談役。08年10月食品産業功労賞受賞。NPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長を務める。
編集長インタビュー
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)