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海外レポート

米国食農紀行(3)貧困との戦い(続)食料不足の解消に向けて

再開発に伴う食の変化

ワシントンDCは再開発の真っ只中にあった。工事現場では大型のクレーンが空中を横切り、ダンプが進入していく。
開発により政府系の仕事が急増し、新たな職を手にした人たちが首都に入り込んでいる。地価が高騰しているようで、通訳として同行してくれた30歳間近のマットさんは家賃が高くて生活が大変だとこぼしていた。こうしたなかで食と農はどう変わりつつあるのだろうか。ワシントンDCのH通り地区にバスで向かった。
開通したばかりの路面電車が走る通りには、近年建てられたことが一目でわかる真新しい店が立ち並ぶ。路面電車の通りから一本なかに入ると、家々が側壁をくっつけた住宅街が広がる。母親たちは小さな子どもと家の前で遊び、老人はロッキングチェアに座ってゆらゆらとして過ごしているのだった。
こんな穏やかな時間が流れる日常が訪れるとは、10年前であれば誰も想像しなかっただろう。人種差別の撤廃のために尽力したことでノーベル平和賞を受賞したキング牧師の暗殺事件が1968年に起きてから、この地区は暴動で焼け野原になった。その後もあらゆる犯罪の温床になり、うかつには近寄れないエリアだったそうだ。
かつては黒人ばかりが住む場所だったが、いまでは白人の姿もかなり見かける。ワシントンDCに居住して20年を超える通訳のビルさんは住宅街の様子を眺めながら、「以前であれば恐ろしくてここには来られなかったね。でも、いまなら夜歩いていても平気だと思うよ」と教えてくれた。
そんな様変わりしているH通り地区の一角に2012年、話題の店がオープンした。飲食店を兼ねた大型の直売所ユニオン・マーケットである。
この店が注目されているのは、出店者と投資家の出会いの機会を提供しているからだ。出店している農家や料理人たちは経営規模を広げることや独立した店舗を持つ夢を描いているが、手元には肝心の資金がない。このマーケットで自分の商品や腕をアピールすることで、自分たちの夢に投資してくれる金持ちを募っている。投資家にとっても、再開発が進む首都で食の新たなマーケットが生まれつつあるなか、事業的に可能性のある農家や料理人を探しているのだ。

フレッシュであれば
高くても買う

もちろん、訪れる人たちの大半は投資云々には無関心で、マーケットとしての魅力を感じている。筆者らが訪れた平日の昼時にも大勢の客が車で押し寄せていた。
まずは出店者に話を聞いてみた。ワシントンDCに隣接するメリーランド州の40エーカー(約16ha)の農園主として有機農産物ばかりを作るアベッド・アルマラさん(56)は、ここのオープン時から店を出して、野菜や果物を売っている。その理由について尋ねると、「最近、ローカルなものを求める人が多いんだよ。この辺りには収入が高い人たちが多いからね。彼らが求める価値ある野菜を提供していきたいんだ」と言う。
では、その価値とは何か。買い物に来ている客に話を聞いた。30代の女性は、「値段はスーパーの品物より高いけど、フレッシュでおいしいからいいのよ」と笑った。ほかに質問した人たちもだいたい同じような答えだった。

浸透する
ローカヴォアの動き

来客から話を聞いているうちに、よく耳にした単語がある。「LOCA VORE(ローカヴォア)」だ。その意味するところは日本でいう地産地消。米国では同じ趣旨を持つ言葉として、たとえば「FARM TO FOLK」がある。ただ、そうした従来の言葉との違いはローカヴォアが距離の概念を取り入れている点だ。
ローカヴォアについてインターネットで調べてみると、この運動を始めたサンフランシスコ在住の女性4人が運営するホームページがあった。そこに書かれた説明によれば、積極的に購入する農畜産物を半径100マイル(約161km)圏内で育てられたものに限っているということだ。

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