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江刺の稲

貴方の「有機農産物」は本当に安全でおいしいか?

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第20回 1996年12月01日

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「あたりまえの農産物」にたいしての「付加価値商品」として「有機農産物」の生産・流通量が急増している。そんなことから、「有機」「無農薬」「減・小農薬」など様々な表現で販売されている「有機農産物」の「表示」について、農水省「ガイドライン」の見直し論議も盛んである。関係者によれば、様々な立場や思惑が錯綜して、議論のおさまり所を見出しかねているというのが実情のようだ。
 「あたりまえの農産物」にたいしての「付加価値商品」として「有機農産物」の生産・流通量が急増している。そんなことから、「有機」「無農薬」「減・小農薬」など様々な表現で販売されている「有機農産物」の「表示」について、農水省「ガイドライン」の見直し論議も盛んである。関係者によれば、様々な立場や思惑が錯綜して、議論のおさまり所を見出しかねているというのが実情のようだ。 

 「有機農産物」という付加価値商品が大量に出回るようになって、消費者の安心と誠実な生産者の努力と誇りを守るためにも、表示に関してなんらかのガイドラインや認証基準は必要だろう。

 しかし、生産者や販売者が販売する農産物が、どこにでもある「あたりまえな農産物」とは違うというのであれば、何も「お上」が作る基準に合せるというより、科学的根拠に基づき顧客との信頼関係の中で、生産者自らや販売者の自己責任において農産物の価値を評価し、自ら「責任をもって」生産・販売するべきではないのか。

 ところが、現状での「有機農産物ブーム」とは、生産者を含めて農産物流通業界や外食産業界においても「付加価値商品」としての視点でとらえられることが多い。そのために結果として「嘘付き商品」を作り上げてしまうような事態も生じている思う。畑に鶏糞振って段ボールに「有機」と大書きすれば通ってしまうような「嘘付き有機農産物」はそこいら中に氾濫している。

 農産物に付加価値を付けるために、加工品を作ったり、パッケージやディスプレイに工夫したり、農産物その物に夢を語らせたり、販売方法やルートの新しさで顧客に迫れないかと考えたりする。それは正にマーケティングの基本であり、正当なことであろう。

 仮にイメージ(幻想)で実物以上の価値を商品にプラスしたとしても、顧客がそれを納得するのなら、顧客は夢や幻想ごとその農産物を買ってくれたのである。それは決して言葉で購入者を編しているわけではない。しかし、嘘はいけない。とりあえずお客には嘘が付けたとしても土や自然には嘘が付けないからだ。

 そもそも「有機」だから「美味しい」、「有機」だから「安全」というのは本当なのだろうか。「有機」と付けば市場で高く売れるとばかりに、それこそ粗製濫造された「有機」と称する農産物の中には、安全どころか身体に害を与えるレベルの硝酸態窒素を含む野菜が目につく。

 現在の「有機農産物ブーム」とは、「健康指向」といえば聞こえが良いが、それは、消費者が持つ過度に化学物質へ依存した農業生産への「不安」や農家への「不信」に発したものなのではないか。

 そして、農業生産における農薬や化学肥料への依存度の高さが、作物の汚染ぽかりでなく、作物生産そのものを不安定化させているのだ。

 農業は自然界の物質循環(有機的連関)のなかで行なわれているものであり、そもそも「有機的」でない農業などというものはあり得ない。むしろ、もっともらしい「商標」としての「有機農産物」、あるいは「有機農業」が美しい言葉として一人歩きしてしまうことで、消費者や生産者を惑わせていることはないのか。

 農薬や化学肥料が適正に使用されていたとしても(時にはだからこそ)安全で美味しいということもあるのだ。

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