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農業経営者ルポ

尊敬すべき「大バカ者」がここにいる

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第28回 1998年04月01日

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 長友さんの農場には野菜の直売を止めた今も沢山の人が訪れる。また、その人達が様々な職業や国籍の人々を連れてくる。長友さんに会いに、土に作物に自然に触れるために。そして、そこでの出会いが人の輪を作り、コンサート活動や地域の様々な文化的催しの拠点にもなる。

 しかし、実をいえば野菜の引き売りをしていた時代の方が現在より収入は多かった。今、奥さんは改めて自然分娩を勧める助産婦の仕事に意欲を燃やしている。それが収入減を補うことにもなっている。

 もちろん、長友さんは収入が減ったことに無頓着なわけではない。ただし、収益拡大はあくまで「地恩堂グリーンプラザ」の経営理念のなかで果していくべきだと考えているのだ。

 値上げの要請も考えないでもない。しかし、高品質であっても商品には値頃感もある。そこで、現在の出荷先以外に、調製作業が簡単にすむレストランやホテルにコンテナ出荷の形で流すことも検討している。栽培面積の拡大だけなら機械化で品質を落とさずに行える。現在の調製作業を前提にするなら出荷量を増やせないからだ。長友さんを訪ねる人の中にはホテルチェーンの料理長さんもおり、需要はあるのだ。同時に、単なる作物生産者としてだけではなく、「地恩堂」と名乗る長友さんならではの多面的な役割りと大きな可能性がそこにある。そういう時代が来ているのだ。そして、農業経営者・長友さんの舞台はすでに畑だけでないのだ。


経営者としての資質


 長友さんは大学入試の面接でつい口に出して答えたことをきっかけにして、農家になってしまった。しかもそれは、語られてきた「農家」や「農業」の枠を越える存在である。

 しかし、面接をした大学教授がそうだったように、誰も長友さんが本当に農家になるとは思わなかったし、思えなかったのではないか。でも、長友さんはそれを信じて疑わなかった。自分が農家に生まれなかったことや農地が無いこと、そして農地法上の制約などは、何の問題とも感じなかった。そんな長友さんだからこそ、それを実現するための手順と計画が見えたのだ。

 経営者の為すべきこととは、始めから結果の見える手順をつつがなくなぞることなどではない。それだけでは単なる作業員や管理人に過ぎない。

 経営者がすべきこととは、人がまだ見ぬ物を見、現実には存在していない事実を心の中で創り上げ、その現実化のために計画し、実現への手順を積み重ねていくことなのである。そして経営者とは、その夢の実現のための困難を面白がることのできる者なのだ。

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