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「株式会社の農地取得解禁」報道を解説する
- 土門剛
- 1998年07月01日
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そんな事実はありません
筆者は、この記事が出た日の午後、たまたま農水省にいた。農地の担当課には、地方農政局からの事実確認の電話が入っていたが。応対に出た担当者は「そんな事実はありません」と答えるのがやっとだった。
でもちょっと待って欲しい。クラブ詰めの新聞記者が勝手に記事を書くものか。記者クラブには1、2年しか在籍しない。そんな記者が農政大転換につながるような記事を勝手に書くわけがない。農水省幹部が、新聞記者にリークして書かせたとみるべきだ。それも何かの目的があってのことだと思った。
しかもである。農水省官房を中心に進めている農業基本法の改正作業では、本問題が焦点の1つとなっていて、農業団体と産業界が解禁の是非をめぐって侃々萼々の議論を続けている、そんな最中である。そのタイミングといい、何かワケありの特ダネであることは間違いない。農水省が、農政大改革に踏み切るべくアドバルーンを上げてきたのか。それとも新聞記者が作り出した特ダネなのか。その真意はいまだ不明だ。
賛否両論
その前に株式会社の農地所得解禁について簡単に整理しておこう。
農地法第2条は、株式会社の農地所有を原則禁止している。
まずは反対論。「自然を相手とする農業には株式会社はなじまない。あくまで家族農業が基本。株式会社に農地所有を認めれば、農村社会が成り立たなくなる」。「株式会社に農地所有を認めれば、総合商社など大資本が農地を買い占め、農業以外の目的に使ったり、あるいはリゾート用地などに転売してしまう。従って株式会社に農地の所有を認めるのは、原則、反対である」
次いで賛成論。「株式会社形態による農業経営は、家族労働よりも高い生産性が期待でき、規模拡大や設備投資などに必要な資金調達力もある。家族経営はドンブリ勘定になりがちだが、株式会社は、経営ノウハウやマーケティングに優れた能力を発揮でき、労働力の確保も容易となる」。「反対論者は、リゾート用地などに転売すると恐れているが、厳しい転売規制をかければ何の問題もない」
本問題に対する賛否両論を整理すれば、反対意見は多分に感情論に根ざし、賛成論は農業の将来に道を開こうという立場からの意見のようである。筆者なりに整理しておく。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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