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新・農業経営者ルポ

過疎の中山間地に経営の可能性を見つける

 そして、高木の山仕事は水田の地権者たちの感謝の対象であり、そうであればこそ高木に水田を管理してほしいと思う。すべての水田に柵を張る高木の苦労を思って、草刈りを手伝ってくれる高齢者もいる。

 今年からは父親だけでなく、妻の有貴(38歳)も山仕事に参加するようになった。高木が特にそれを求めたわけではない。娘の麻里が2歳になり、母のイツ子(70歳)に頼めるようになったことで、有貴が望んだのである。非農家の出身だが、高校時代は器械体操の選手、出産前まではトライアスロンの選手だった有貴は、出産で我慢していた体を動かす感激を取り戻そうとしているのかもしれない。

 「親も自営業だったから商売の苦労は知っています。でも、私は体を動かすのは嫌いじゃないし、山仕事は楽しいですよ。今年からは田んぼにも行くつもりです」と気合が入っている。

 歳の離れた高校の後輩であるというが、人に振り向かれるような美人の有貴と結婚した高木。美人で想いを共有できる妻は、高木にとってはセルシオに乗るのと同じくらいに目標だったようだ。高木は笑ってこう話す。「人に羨ましがられるような結婚をするために、婚期が遅くなりました。失敗してはならないと、結婚前から一年間家族と同居してお互いを確かめ、その上で正式に結婚したのです」


材木運びのスキルを水田経営にも活用

 まだ雪の残る山に連れて行ってもらった。九十九折の険しい林道をナンバーのない古い車で上がり、材木を運び出している作業現場に向かう。道のないこんな場所にどうやって大きなウインチなどを上げたのだろうと思った。ミニショベルとウインチで引き上げたのだというが、木の間に滑車とワイヤをめぐらせたその仕事は、とても簡単に覚えられるものではない。

 この仕事で学んだ段取りの知恵は、高木の水田経営の作業計画にも活かされていることが想像できた。とにかくすべての水田に電気柵か網を張りめぐらせる。苗は購入するものの、ほとんどの作業を一人でこなす高木の水田経営の工夫は、この山仕事で学んだものなのだろう。

 12ページの図を見ていただきたい。高木は土壌改良剤や肥料を効率よく散布するため、約100枚の水田のすべてについて、散布数量に合わせた袋の仮置き場所を示す図を作っている。水田は概ね30aに基盤整備されているが、すべてがそういうわけではない。そこで圃場の形状を地図に表し、作業順路と袋の仮置き場所を決めておき、作業前に袋を配置しておく。そうすることで、ムダ走りや袋を担いでの移動もなくなり、作業時間や労力が軽減されるのである。

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