ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

農業経営者ルポ

好きで選んだ道だけど、未だ迷いの中にいる

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第31回 1998年08月01日

  • この記事をPDFで読む
    • 無料会員
    • ゴールド
    • 雑誌購読
    • プラチナ
過剰の時代の中で


 農業は「経験主義」の世界である。先人の長い経験の積み重ねの中で人はその「恵み」を手にしてきた。どれほど科学や技術が進んでも農業は自然から与えられる恵みであることには変りはない。「新しいことに手を出した者が損をする」といった農民的処世術の背景もここにあるのだろう。「経験」や「習慣」には歴史の「知恵」が含まれている。ただし、その「知恵」は現代的技術手段を持たぬ「欠乏」の時代の経験に依存したものなのである。

 しかし、今、我々が耕している畑はかつての痩せ地ではなく、我々が長年与え続けてきた「過剰」な肥料が作り出した糖尿病状態の畑なのである。いわゆる成人病を「生活習慣病」というのと同じく、農業の世界も「施肥習慣病」に陥っている。そもそも、人を含めたあらゆる生命は遺伝子レベルで組込まれた「過剰に向けて突き進む性癖」を持っているのだ。「欠乏」を前提とした経験だけに頼る限り、我々は「過剰」の障害を解決できないのだ。

 「足りない」のではないかという不安を持つより「多過ぎる」ことによる障害に敏感であり、その中での健全さを保つ技術や知識を、農業の新しい「習慣」として持つ必要があるのだ。足りなければ加えるだけで解決した「欠乏」の障害より「過剰」による障害の方が解決ははるかに困難なのだ。

 養田さんは「答え」ではなく「知識」を求め、「自分の土を自分で診断していく」ことのなかで、経営改善に結びつく解決の手立てを見い出した。自ら「ナゼ」を問い、養液土耕に取り組んできた養田さんの取り組みとは、施設園芸に限らず全ての農業経営者たちに共通する課題なのではあるまいか。そして、それは技術の問題であると共に経営の課題であり、現代人の生き方にかかわることでもあるのだろう。

 「好きで選んだ道だけど、未だ迷いの中にいる」

 と養田さんは笑う。確実に成果を上げているが、知れば知るほどに新しい疑問が出てきて、それに迷い、そしてそれを面白がる養田さんなのである。


養田勝重さん

【プロフィール】
農業経営の現場に初めて養液土耕技術を導入した経営者として有名な養田勝重さんであるが、そんな同氏もかつては過剰施肥の障害に悩んでいた。持ち前の研究心と好奇心から技術知識の向上が経営改善に結びついているが、同氏は「農家は、まず体が憶えている過剰施肥の習慣から抜け出すことに取り組む必要がある」と話す。同氏については、本誌21号の「先端経営・先端技術」でも紹介している。

関連記事

powered by weblio