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特集

直播栽培をどうとらえるか

 「将来の技術開発のため」などという抽象的な答えだけでは、農家との膝を付き合わせての交流は図れません。そこで、「生産者米価はもう上げられないだろう。かえって海外との関係で下げられる情勢だ。その時に『ほらこの直播体系では、これだけ生産費が下げれれるではないか』という論拠を実証研究に求められている。

 だからこの研究が成功すると、米価引き下げへの裏付けを果たすことで、一見生産者の足を引っ張ることにもなりかねない。しかし、研究の成否にかかわらず米価は引き下げられて行くでしょう」と正直に思っていることを答えました。

 当時これらのやりとりは、昨年(1997年)の米価の低下で実際のものとなりました。実証試験を行った山形県は、ここ数年直播栽培の面積の伸びが著しく、全国でも上位にランクされています。この傾向について県の関係者は「農家が、米作りは不採算部門であると気付いたからだ」という表現で説明してくれました。


「直播」の効能

 生産者米価が上がらず下がる時代に、新たな栽培技術を習得すれば、経営における選択の幅は広がります。しかし農家と話してみると、直播に挑戦したからといって、直ちに採用するのではなく、技術の中身や特徴を見極めて、長所が生かせるなら経営に組み込むことにしています。

 ですから、当面直播というものを理解できたところで栽培をやめる農家もあれば、「利点が見えないし、問題点が多い」と、否定的に撤退する農家もあります。すでに経営の全面積を直播に切り替えた農家もありました。

 短期的な普及面積の統計値だけに基づいて評価すると、農家の多様な判断と対応を見失ってしまいます。直播を普及させようとの動きが余りにも性急に進められれば、技術の習得もままならないうちに失敗し、「二度と直播は試みない」との副作用を起こしてしまう恐れがあります。水稲には、移植体系という安定した生産技術がすでに普及している、との出発点の条件を理解する必要があります。

 実際の直播の効能を調べてみますと、期待されている低コスト化についても「切り札」になる程ではありません。生産費解析の結果では、苗の生産管理を中心に労働時間の短縮効果は顕著に見られるものの、これだけで全体の値を大幅に下げることにはなりません。まして単収が下がっては、収量当たりの生産費は逆に上がってしまう場合も出てきます。

 農家が経験から直播をプラスに評価しているのは、「移植の場合は、田植機の運転と苗運びなど組作業が前提となるので、手間の配分に気を使わなければならない。これに対し、直播は一人で作業の段取りがつく。苗作りの手間のカットの効果とともに良いところだ」(この作業を一人で段取りできる効果について、東北農試の経営研究者は、農村の労働力変化の統計値から、ワンマンファーム化が進むと予測されるので、直播採用の一層の動機付けとなる可能性があると評価しています)。

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