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【農業経営者ルポ】
計算ではなく、夢と確信が生んだ成功
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第37回 1999年02月01日
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北の山村から
北海道虻田郡留寿都村は羊蹄山の裾野、標高300m、北海道の中でも中山間地域にある村だ。玉手博章さん(44歳)は、そんな留寿都村から全国に向けてバレイショ(キタアカリ)の宅配に取り組む農業経営者である。
お客さんは約500人。その内300人位は、贈答品として毎年使ってくれるため、商品の発送先としては3500軒を超える。さらに、一昨年からはバレイショの本場、帯広市を中心とした地域に展開する地方スーパーへも直売の形で出荷をしている。
玉手さんが取り組んでいるのは、単に、作っている「バレイショ」を都会のお客さんに売るだけの産直ではない。ささやかな規模であっても、キタアカリにこだわり、自ら種芋を厳選し、栽培法にも独自のノウハウを持ち、また、ネーミングを含めて顧客が何を求めているかを考えて企画された「商品」、「贈答品」としてのバレイショ宅配事業なのである。しかも、栽培の全量が植付け前にお客さんから注文を集める受注方式での生産・販売なのだ。
留寿都村は、北海道のリゾート開発として成功例の一つに数えられるルスツ・リゾートのある村だ。夏冬ともの観光地として全国にも名が知れるようになった。吹雪の中でもライトアップされたゲレンデ、そして新千歳空港からルスツに直行するリムジンバスが集結するリゾートホテルの姿を見ると、そこは「売り店舗」と書いた看板を軒に吊るした商店が並ぶ、北海道の過疎地域の寂しい町並みの雰囲気はない。
しかし、村内を通る国道のすぐ脇がスキー場のゲレンデという山の中だ。農業の生産条件として見てみれば、北海道だからといって圃場条件にめぐまれているとは言えない。玉手さん自身の圃場の面積にしても約12.5ha、北海道の畑作農家としては決して大きな規模ではない。
限られた面積、そして北海道の多くの畑作地帯と同様に、ビート、バレイショ、豆といった畑作物を作って農協に出荷するだけであれば将来は見えていた。
しかし、玉手さんは作れるだけの農民ではなかった。人に「何を作れば売れるのか」を聞くことしかできず、あるいは作って売れぬ物を「買ってくれ」と泣きつく農民でもなかった。ただ土に向かって汗を流し、あなた任せに自分の未来が決められていくような農家としての生き方が嫌だと思った。小さくとも農業を事業として経営すること、自らの手で自分や家族そして玉手農場の未来を創っていく道を選んだのだ。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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